おおいた温泉道 田中利明さん 豊後高田市・夷谷温泉
豊後高田市中心部から車で約40分。「夷(えびす)耶馬」と称される奇岩秀峰を望む静かな山あいに夷谷温泉はある。1995年に旧香々地町営の温泉施設として同市夷に誕生。「秘湯」の言葉が似合うひなびた雰囲気だったが、昨年10月に露天風呂が完成し、建物もリニューアル。最近では地元の常連客に加え、市外、県外から入湯客が増えている。
「とにかく泉質が素晴らしい」。昨秋に温泉道を始め、早くも4巡目に入った田中利明さん(27)は相棒の手おけを抱えてのれんをくぐる。「泉質や効能は温泉の個性。それらを深く理解したいと考えるきっかけになったのが、ここなんです」。まっすぐ露天風呂に向かい、ゆっくり湯船に漬かると「休みを実感する」と笑顔を見せた。
湯は茶褐色。色が濃く、底は見えない。硫酸塩泉はそもそも数が少なく、珍しい泉質だが、驚くべきはその濃度だ。硫酸イオンの含有量が豊富で「別府にある硫酸塩泉の8倍くらい。常連客から『ここが気に入ったら、もう他には入れないよ』と言われたけど、分かる気がします」。肌に心地よいピリピリ感があり、湯上がりは体全体がさっぱりしている。
別府市で生まれ育ち、温泉は「身近すぎた」。進学で県外に出た際、湯煙がないことに驚いた。地元に戻り、「温泉は当たり前の存在ではない。きちんと知り、素晴らしさを感じたい」と巡り始めてすぐに夷谷温泉に出合った。自宅からはかなり距離があるが、休日のたびに通うようになった。
「山道を走りながら、『夷谷に向かっている』と思うと本当にわくわくする。四季折々に移り変わる山々の景色も美しい。温泉も行き帰りの景色も楽しみながら、何度でもわざわざ来たくなる温泉です」。満たされた表情で家路に就いた。
たなか・としあき 1988年、別府市生まれ。日出町の施設で介護士として働く。不規則な勤務の合間を縫って、「1日1湯」を続けている。休日は食事と同じように3回入浴することもある。