長尾 敏伸さん 大分市王子中町・王子温泉
「大分の温泉といえばまず別府、湯布院が思い浮かぶでしょうが、大分市にも知る人ぞ知る名湯がたくさんあるんです」
藍染めの作務衣(さむえ)に身を包み、さっそうと現れたのは永世名人の長尾敏伸さん(45)=大分市富士見が丘。別府八湯温泉道を11巡した猛者の証し「紫タオル」を頭に巻き、マイ風呂おけを脇に抱え、道を究めんとする姿はまるで武士のよう。"おんせん県都"の実力を確かめるべく、大分市王子中町の「王子温泉」へ、いざ出陣。
春日神社の西側、閑静な住宅街にたたずむ銭湯は昨年、開業100年を迎えた老舗だ。3代目の渡辺昇一さん(81)が夫婦で切り盛りしており、番台から妻の晧(こう)美(み)さん(78)がほほ笑みながら「いらっしゃい」。木製ロッカーや古びたマッサージ椅子は昭和の趣を醸し出す。
「レトロな雰囲気が魅力だが、泉質も文句なしの一級品」。100%源泉掛け流しで、泉質はナトリウム—炭酸水素塩泉。とろみのある茶褐色の湯は「モール泉」と呼ばれ地中深くの有機物が溶け出たもの。大分市内は火山性の自噴泉ではなく、地下600〜800メートルの熱水をくみ上げた「大深度地熱温泉」が点在し、ここもその一つ。「ぬるめで夏場でも入りやすい。美肌効果があり、湯自体がつるつるしているのでせっけんいらずです」。出る際は有効な成分を洗い流さないよう、シャワーは浴びずにそのまま拭き取るのが吉、とアドバイスを受けた。
温泉への情熱はさめやらず、今年6月に「温泉ソムリエ」の資格も取得。豊富な知識で成分表を読み解き、効能を実感しながら湯を楽しむ。建設会社に勤め、力仕事も多いが「入るのと入らないのでは疲れの取れ方が全然違う。温泉はもう生活の一部」と笑った。
ながお・としのぶ 長崎県長崎市出身。大学卒業後に上京、2007年に父方の実家である大分に帰郷。別府八湯温泉道永世名人。温泉ソムリエ。
王子温泉(TEL097・532・8438)の定休日は土曜日。営業時間は午後4時〜同10時。料金は大人(中学生以上)380円、小学生150円、幼児70円。