岸川多恵子さん 別府市光町・錦栄温泉
「共同温泉は人と触れ合える"社交場"。別府らしさが出る一番の場所なの」。名人の岸川多恵子さん(67)=別府市光町=はそう言ってなじみの入浴者と親しげに話し始めた。
市中心部にほど近い住宅地の一角。半世紀前に誕生した錦栄(きんえい)温泉は1階に温泉、2階に公民館という、別府の典型的な区営温泉の造りだ。
泉質は単純泉。無色透明でくせのない香り、まろやかな肌触りが親しみやすい。湯に含まれる豊富なナトリウム成分などがタイルや壁面をくすませ、レトロな雰囲気を醸し出す。至るところに「ダメ 歯みがき」「節水」の掲示があり、ほほ笑ましい。
湯自体は堀田温泉から引いているが、適温にするため、地下からくみ上げた井戸水を加えている。この水自体、温泉かと思うほど温かく、なめるとどことなく金っ気を感じる。堀田の湯と地元の水の"合わせ技"でできる独自の泉質なのだ。岸川さんも「湯上がり後はしっとり、つるつるになるわ」と絶賛する。
近所に住む岸川さんは中学時代からの利用者で、錦栄温泉への思い入れはひとしお。最近は朝風呂で使い、毎日の活力の源という。「『あの人はぬる湯好き。水を足そう』など、みんなで心地よい風呂をつくり合っている。地域に密着した温泉だからできること」
8年前から番台に座る上野静子さん(68)も「入りやすい泉質にびっくりする観光客がいる。おかげさまで遠くからの常連も多いですよ」と話す。
岸川さんは今後、湯に入る前にしっかり体を洗うなど、共同温泉の入浴マナーを人との交流を通し、観光客らにも伝えたいという。「みんなで使うという感覚を大切にしてほしい」。笑顔の名人に、地元の温泉への並々ならぬ愛を感じた。
きしかわ・たえこ 別府市出身。岸ママの愛称で親しまれ、別府市元町でまちづくり関係者らが集うカフェ「サロン岸」を経営していた。2003年5月に別府八湯温泉道名人位取得。
データ
錦栄温泉(別府市光町20の2)は午前6時半から同9時半と午後4時から同10時半。入浴料は年齢問わず1人100円。30回券は有効期限なしで1300円。休みは毎月1、10、20日。