おおいた温泉道 指原勇さん 別府市浜脇・蓮田温泉
熱い。足先を入れると、刺すような熱さが膝まで伝わる。「この熱さがたまらないという人もいるけどね。湯は適度な温度に調整しないと」。別府八湯温泉道で88湯を巡る名人位を66回積み重ね、「泉王名人」となった指原勇さん(66)=東京都=はそう言うと、水を足すホースを浴槽に突っ込んだ。
別府市南部、南小学校そばの住宅地。周囲の雰囲気に合わせたように落ち着いた外観。タイル張りの浴槽は飾り気がなく、普段使いの温泉らしさが漂う。泉質は弱アルカリ性の単純泉で、堀田温泉からの引き湯。無色透明だが、口に含むとかすかな金気がある。
井戸水で調整した湯は熱さも和らぎ、まろやかで肌触りが優しい。肩まで漬かると、体の芯まで温まる。「湯上がりはしっとり、つるつる。泉質にくせがないから入りやすいし、飽きがこない」と話す。
子どもの頃から利用し、思い入れはひとしお。「『体をもっとよく洗え』と、知らないおじさんによく怒られた。湯煙の向こうには必ず人がいたなあ。子どもの社交場で、人付き合いを学んだ原点」と感じる。近年は地域の人口も減り、入浴客は減少。「入浴する人が少ないと湯が硬い」と寂しげだ。
就職で上京。退職後の現在は1年のほとんどを市内で過ごす。温泉道に興味を持ち、“初代”の称号を獲得しようと挑戦を繰り返した。温泉道名人会の一員で観光客に湯を案内し共同温泉を掃除するイベントにも参加。仕事で培った語学力を生かし、外国人客には入浴マナーも教える。
「入浴客、名人仲間、施設の人…。温泉はいろんな人に出会える場所。この魅力をもっと多くの人に知ってほしい」。名人の熱い思いを感じた。
さしはら いさむ 別府市生まれ。東京都内の電気通信関連企業に勤めながら、落語家としても活動した。温泉は徒歩で巡るのが信条。「88湯を77回、66歳で達成」に向け、湯を回る。
西蓮田温泉とも呼ばれる。3月までの冬季は午前7時から、9月までの夏季は同6時半から。いずれも午後11時までで、正午からの2時間は清掃時間。入浴料は1回100円。