宮内裕和さん 別府市小倉・照湯温泉
山あいの川沿いにある湯屋は江戸時代の趣で、せせらぎの音が心地よい。泉源のやぐらからはもうもうと湯気が噴き上がり、温泉名人の宮内裕和さん(63)=大分市=は「温泉とは安らぎを求める場です。そういう意味でお気に入りなんです」と紹介した。
たっぷりと湯を張った石造りの湯船に漬かると、湯はしっとりと透明。単純泉ながらかすかにツンと硫黄の匂いがした。見上げると高い天井が気持ち良い。温度は四十数度とやや熱めだが、「首までどっぷりと漬かります。幼少時から別府の湯に慣れ親しんでいるので、湯はやっぱり熱くなければ」。
江戸時代、周辺は豊後森藩(現在の玖珠町)の飛び地だった。弘化2(1845)年に8代藩主久留島通嘉が温泉を開いたとされる。湯の名前も「殿湯」と「姫湯」。日ごとに男女が入れ替わる。自然災害や土地の整備で再建、移設を繰り返してきたが、殿湯の洗い場に敷かれた石は移設前のものをそのまま使用。湯屋横の「えんま坂」の石畳跡なども現存しており、「歴史を感じさせる土地で石造りの浴槽に入ると本物の殿様になった気分です」と頬を緩めた。
仕事の関係上、転勤が多く県内各地に赴任した。元来の歴史好きという。行った先々で歴史や偉人にまつわる話を収集し、郷土史本に寄稿した経験もある。玖珠町内に勤務した際に照湯と久留島家のつながりを知り、ひかれた。2012年に念願かなって初入湯。以来2カ月に1度ほどのペースで通い続ける。
13年に温泉道名人の称号を得た。条件となる88カ所の入湯に7年をかけた。「今後もゆっくりと時間をかけてお気に入りの温泉地を探します」。温泉だけでなく、土地の歴史を楽しむのも「温泉道」の醍醐味(だいごみ)なのだろう。
みやうち・ひろかず 北九州市出身。県内の金融機関に勤務後、不動産会社社長に就任。今年6月に退任した。趣味の音楽と旅行に合わせ、歴史・温泉探求を楽しむ。大分市在住。
営業時間は午前9時から午後9時まで。年中無休(臨時休業あり)。入浴料は大人200円、子ども100円。問い合わせは「照湯温泉」(TEL090・3736・8139)へ。