高崎富士夫さん 別府市観海寺・旅亭松葉屋
「温泉の恵み、見事な眺望、歴史が醸し出す風情。別府の良さを味わうならここだ、と思いましてね」
別府市街地と別府湾を一望できる観海寺温泉。名人の高崎富士夫さん(72)=別府市朝見=の一押しで訪ねた旅亭「松葉屋」は、温泉の魅力をぎゅっと詰め込んだ宝箱のようだった。
観海寺は1600年の石垣原合戦で、名将・黒田官兵衛と対峙(たいじ)した大友軍が陣取った場所。江戸時代から湯治場として栄え、明治・大正期は多くの文人墨客に愛された。
泉質は湯治に適した単純泉ながら、ほのかに硫黄の香りも漂う。「一度に2種類の温泉を味わったみたい。得した気分です」。湯船でゆったりと手足を伸ばすと、高崎さんは「ふ〜っ」と深く息を吐き出した。
湯上がりには飲泉の名所として知られ、松葉屋と敷地を接する薬師堂のいで湯を使った冷水をゴクリ。古くから胃腸への効能が伝わる水は口当たりが優しく、火照った体に染み入るよう。入って良し、眺めて良し、飲んでまた良し—だ。
別府八湯温泉道は8巡目に入った高崎さん。2008年に名人会を立ち上げ、初代会長に。現在は顧問として県内外の温泉道ファンの"相談役"を自任する。
経営する市内の喫茶店は週末になれば、1日に何湯も回る県内外のファンが羽休めに訪れる。「お勧めのルートを教えて」と求められることもしばしばだ。
その際、必ず伝えるのが入湯のマナー。浴槽に漬かる前のかけ湯は言わずもがな。浴場ではあいさつし、使ったおけ、椅子は元の位置に戻す。「誰もが気持ち良く楽しむための最低限の礼儀だから」。温泉を愛する気持ちは人一倍だ。
最後に、名人にとって温泉とは—。「人生の疲れを癒やし、明日への英気を養う最高の場所、ですかね」
たかさき・ふじお 臼杵市出身。別府八湯ウオーク連絡協議会共同代表、あさみ地域振興会の代表世話人。「九州八十八湯めぐり〜九州温泉道」の「泉人(せんにん)」でもある。
データ
旅亭「松葉屋」(TEL0977・22・4271)は年中無休。立ち寄り湯(主に平日)は宿泊状況によるため事前に問い合わせが必要。料金は700円から。利用時間は午後2〜4時。