玉井元和さん 別府市新別府・市の原共同温泉
噴き出す汗を首に掛けたタオルで拭いながら、ひたすら歩く、歩く—。
別府市新別府。九州横断道路から脇道に入り、坂を300メートルほど上ると、ひときわ目を引く古い木造の小屋がある。お多福の真っ赤な看板が目印の「市の原共同温泉」だ。半袖に半ズボン姿、リュックを背負った玉井元和さん(67)は汗だくになって「家から50分かけて歩いてきました」。初めて徒歩で温泉を巡り名人になった“つわもの”だ。
古めかしい扉を開くと、手書きで書かれた男湯と女湯の文字が目に留まる。早速、べたついた体を熱々の温泉で洗い流し、いざ湯船へ。大人が1人入っただけで、湯が勢いよくあふれ出すほど小さな浴槽。「はー」と思わず声を上げた。
無色透明の単純泉。50度近くある源泉に水を継ぎ足し、好みの温度に調節できる。「建物のレトロ感といい、熱めのお湯は湯冷めしない」。80年ほど前から地元住民の交流の場として愛され、壁の向こうの女湯からは、おばちゃんたちの笑い声が聞こえてくる。
名人を目指したのは13年前、脳梗塞で倒れたのがきっかけ。リハビリのためにと、自宅近くの竹瓦温泉に毎朝通った。「最初は熱くて長く入れず、健康のためだと我慢して入っていた」。風呂仲間に「健康のためなら徒歩で巡って名人になっては」と勧められ、2006年12月から挑戦。現在、12巡目となった。
「地図を持たず、自分の勘を信じて歩いて行く」がモットー。「歩くことで強い足腰を手に入れ、今では病気知らずです」。由布市湯布院町の塚原温泉まで片道5時間かけて行ったこともあるという。
「汗だくになって温泉に入ると、疲れている分だけ歩いたことの達成感も増大する。歩けなくなるまで、温泉に通い続けたい」
たまい・もとかず 別府市北浜在住。市内の障害者施設でヘルパーとして働く。「竹瓦温泉朝風呂の会」の会員でもあり、歩いて向かうもう一湯はその日の気分で決めるという。
地域の共同温泉。午前7時(日曜は同8時半)から午後10時まで入浴でき、向かいの「スマイルショップ」で入浴料200円を払う。問い合わせは同店(TEL0977・23・3447)。