渡辺修武さん 湯布院町湯平・金の湯
青々とした山を眺めつつ、温泉街を流れる花合野(かごの)川のせせらぎに耳を澄ませる—。初夏の息吹を胸いっぱいに吸い込みながら、「湯平は温泉を五感で感じられる場所」という名人の言葉を実感した。
渡辺修武(おさむ)さん(47)が案内してくれたのは由布市湯布院町湯平の「金の湯」。古き良き湯治場の情緒あふれる湯平温泉で、五つある共同温泉の中でも最も古い歴史を持つ。「縁起の良い名前でしょ。験担ぎに今年の年始にも来ました」
湯平のシンボルである石畳の坂道を上り切った高台に建つ金の湯。年季が入った素朴な石造りの内装に、地元の住民や観光客が長年愛したぬくもりを感じる。
泉質はいわゆる弱食塩泉。無色透明の湯に漬かると、ぬるっとした肌触りや湯気の香りに心が和む。鳥のさえずりが聞こえ、窓から太陽が差し込む。「温泉は日常の中にある非日常。仕事の疲れを忘れ、前向きになれる」と魅力を語る。
本業は現職の県庁マン。別府八湯の観光振興に携わった際、温泉を巡ってスタンプを集める楽しみ方に興味を持った。1年弱で名人の証しとなる"黒タオル";を獲得。「利用客との触れ合いも楽しみの一つ。会話に時間を忘れ、1時間入っていたこともあるんです」
温泉での出会いに魅せられ、現在は4巡目に挑戦中。一つ一つの温泉を印象付けるため、「1日1湯」にとどめるのがスタイル。食や風景などと一緒に満喫し、その土地ならではの魅力をじっくりと味わう。
定年退職までに「別府88湯」をあと8巡し、永世名人になるのが目標。「利用客や名人会のメンバーなど、多くの人とつながることができた。温泉巡りは自分にとってライフワークです」。公私ともにこよなく愛する温泉。「地元の友人や観光客にも素晴らしさを伝えたい」と笑顔を見せた。
わたなべ・おさむ 国東市安岐町出身。県観光・地域振興課で「おんせん県おおいた」の観光PRに取り組む。
共同温泉「金の湯」は午前6時半から午後9時半ごろまで利用可能。原則として年中無休で入湯料は200円。問い合わせは湯平温泉観光案内所(TEL0977・86・2367)。