おおいた温泉道 祢津泰菜さん 別府市楠町・寿温泉
多くの車が行き交う別府市の流川通りから細い路地に入ると、ひっそりと寿温泉がたたずんでいた。1924年から同所で住民に守られ、愛されている。
女湯の扉を開けると広い脱衣所があり、その先に温かな湯気の上る湯船が見えた。「脱衣所と湯船が一緒にあって、シャンプーもせっけんもない。みんなどうしてるのかと別府に来た父が驚いてました」と話したのは、寿温泉を紹介してくれた祢津泰菜さん(25)=別府市楠町。
祢津さんは長野県出身。大学進学を機に別府に来た。初めて行った浜脇温泉では湯が熱くて入ることができなかった。「体に湯をかけるだけで終わった。それがとても悔しくて。別府の温泉の熱さに慣れたいと思った」と振り返る。
大学1年のとき、友人と温泉名人を目指してスパポートを購入して温泉巡りを開始。昨年2月に全てを回りきった。最後の88カ所目の温泉は、熱くて入ることができなかった浜脇温泉。「温泉の熱さに慣れたということを証明したかった。ちゃんと漬かることができました」と笑顔を見せた。
自宅に風呂がないため、引っ越してからは寿温泉に毎日通う。湯は鉄分を多く含んだ炭酸水素塩泉。冷え性や神経痛に効くとされる。長年子宝に恵まれなかった人が温泉に通うようになって子どもを授かったことから「子宝の湯」とも呼ばれる。
「1人暮らしだとどうしてもシャワーだけになる。肩までゆっくり漬かることができて幸せです」と祢津さん。大学の同級生はほとんどが県外へ就職。別府に残るのは祢津さんだけになったが、温泉名人になって名人会の友人が多くできた。「温泉は別府と私をつないでくれる大きな存在」。温泉は体も心も温めてくれるようだ。
ねつ・やすな 長野県岡谷市出身。立命館アジア太平洋大学卒業。現在は別府大学で事務職員をしている。趣味は最近始めたスキューバダイビング。海の中の生物観察が楽しみ。