おおいた温泉道 赤野 和久さん 竹田市直入町長湯温泉「水神之森」
不思議な温泉だ。炭酸泉なのに泡立たず、湯の表面には白い煙となった二酸化炭素(CO2)がはっきりと見える。ツンと鼻を刺す感じの独特の匂いがした。
竹田市直入町長湯温泉の「水神之森」。第55代永世名人の赤野和久さん(25)=別府市=が「高温の炭酸泉は泡立ちません。それでも入浴剤の何十倍もの炭酸濃度です。寒くなるこれからの時季にお薦めです」とにこやかに説明した。
湯の温度は41度と38度の2種類。露天風呂からはくじゅう連山を一望できる。湯は茶褐色で、泉質は含鉄(Ⅱ)—ナトリウム・マグネシウム—炭酸水素塩泉。炭酸泉で知られる長湯温泉の中でも唯一「含鉄」の泉質名を持つ。療養泉として人気が高く、北九州市など遠方の常連も多いという。
温泉名は、江戸時代の水飢饉(ききん)を救った近くにある水神様にあやかって命名したが、泉質も優れている。飲水もでき、貧血などに効果がある。入浴後、コップに注いだ湯にクエン酸を入れてできる天然温泉サイダーをごくり。強烈な炭酸泉が乾いた喉をバチバチと刺激した。漬かって良し、飲んで良し。万能の効能に「お湯に溶けた薬」と赤野名人。
頭に巻く紫色のタオルは別府八十八湯を11巡以上した永世名人の証しだ。高校時代、コンビニエンスストアで手に取った温泉本をきっかけにしてはまった。永世名人となった今も「まだ知らない湯がある」と九州八十八湯に挑戦中。月に3、4回は大分を飛び出し、名湯を追い求めている。
ストイックなまでに温泉を究めんとする若き永世名人は「温泉は運命共同体」という。「温泉では裸が正装。肩書など気にせずに話せ、いろんな人とつながれる。素晴らしいですね」。人との出会いも名湯へ足を延ばす理由なのだろう。
あかの・かずひさ 別府市出身。大学卒業後、高齢者支援の会社に就職し、その後、NPO法人「ゆぴあ」へ。スポーツ好きで、トリニータのホームゲーム観戦は欠かさない。同市在住。
「寒くなるこれからの時季にお薦めです」と語る第55代永世名人の赤野和久さん=竹田市直入町長湯
営業時間は午前10時から午後10時まで。不定休。入浴料は大人(中学生以上)500円、小学生以下300円。貸し切りもできる。問い合わせはTEL0974・75・3490まで。