いとしの近代建築 別府市編
今回は別府に残る別荘と旅館を紹介。華やかな観光温泉都市として発展していたころの文化の薫りを伝える二つの近代和風建築。時代の波にもまれながらも時を重ねてきた建物からは、派手さはないものの真の豊かさが感じられる。
冨士屋ギャラリー「一也百(はなやもも)」
明治の旅館、生まれ変わる
別府に唯一残る明治時代の旅館建築。1996年の旅館廃業後は取り壊しの危機もあったが、2004年に当時の趣を残しながらギャラリーとして再生された。時代を感じる空間でお茶を飲んだり、演奏会や展覧会を楽しむことができる。
東側にある石段を上り、正面に見えてくる入り母屋造りの玄関がある主屋からは、旅館当時の格式の高さがうかがえる。2階ホールに立ち、縁側の手すりの下段をふと見れば見事な透かし彫りが…。鉄輪の温泉文化を見守り続けてきた歴史ある木造建築を、地域と一緒に新しい形で次世代に受け継いでいこうという思いが伝わる。
国の登録有形文化財。
【旧称】冨士屋旅館
【建築年】1898(明治31)年
【設計者】不明
【所在地】鉄輪上1組
ガハマテラス 本格的な洋館のたたずまい
久留米絣(がすり)で財をなした国武金太郎が建てた海浜別荘。戦後、九州電力が保養所として買収し、洋風部分を増築した。別府に数多くあった別荘建築と同様、ここも取り壊しの危機にあったが、建物保存を目的に2016年にモダンなリゾートホテルに生まれ変わった。国武が別荘とした和風部分は「照波園」として茶室に、九電が増築した洋風部分は「GAHAMAサロン」として利用できる。
現在改築工事中のため外観は楽しめないが、内部は別。空間をたっぷり使ったサロンは、階段といい暖炉といい雰囲気もあって、物資不足の時代に造られたにもかかわらず本格的な洋館のたたずまい。別府湾を借景にした庭園がある照波園は純和風。上品で落ち着いた造りで、ナンテンの木の柱など、さまざまな木材の組み合わせ方も独特で面白い。
【旧称】国武別邸
【建築年】1927(昭和2)年、54(昭和29)年増築
【設計者】不明
【所在地】上人ケ浜町5の32