藤原賢吾著「筑紫哲也と自由の森大学 『文化によるまちおこし』に挑んだ人々」
(集英社新書・1150円)
バブル経済崩壊後の1994年にスタートし、2006年に幕を閉じるまで、他に例を見ないほど注目された、水郷日田の「自由の森大学」。多くの市民大学の中でも希少な成功例といえる12年間の軌跡と実相を、西日本新聞記者でノンフィクション作家の著者が丁寧な取材でたどって活写することを通じ、地方都市の今後を問うた。
主人公に据えたのは3人。現在の日田市で生まれ2008年に亡くなるまで、各方面で活躍し伝説ともいわれたジャーナリストで学長だった筑紫哲也。同市出身で発案者である原田啓介は、後に日田市長を3期12年間務める。山国町(現中津市)で生まれ中津市職員となる渋谷正芳は最後の実行委員長を務めた。
「平成の咸宜園」となろうとスタートし、発足からすぐに大盛況となったのは豪華講師陣の存在だった。初回から3期までを見ても、宮本亜門、立松和平、阿川佐和子、椎名誠、倉本聰、平山郁夫、加藤登紀子、立花隆、永六輔、小沢昭一、佐高信、山田洋次らが名を連ねた。
活気を帯びた大学の様子を伝えるエピソードは興味深いものばかり。主人公3人の人となりや歩みを中心に、周囲の人々の動きや心のひだも照らし、生き生きとした群像劇ともなっている。コアメンバーたちは家庭を顧みず忙殺され「まちおこしは家こわし」と言い合っていたという。しかし「何もない」と嘆いていた地元に起こった大きな文化のうねりに、膨大なエネルギーが生まれ、突き動かされていたことが読んでとれた。
後半では平成の大合併がもたらしたものや、大学が閉講し筑紫が亡くなった後も市民の声を拾いながら追い、大学により地方都市に文化的な営みが植え付けられた一方で、少子高齢化や経済の低迷で地方の衰退は進行する一途であることを照射する。
全編を通し、筑紫哲也と自由の森大学を描きながら、探っているのは、文化運動の可能性と地域の自立はどうすれば実現するのか。地方に住む人間にとり示唆に富んだ一冊だ。(高橋桂子・大分合同新聞記者)
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