危険運転致傷罪の改正案を全会一致で可決した衆院本会議=25日、東京・永田町
一定の速度超過や体内アルコール濃度で一律に危険運転致死傷罪を適用する「数値基準」を盛り込んだ自動車運転処罰法改正案は25日、衆院本会議で全会一致で可決し、成立した。2021年2月に大分市の時速194キロ死亡事故などで浮き彫りになった処罰要件の分かりにくさを解消するため、法務省が2年がかりで議論した。早ければ7月にも施行する。
数値基準は、▽一般道で最高速度の50キロ超過▽高速道で60キロ超過▽アルコール濃度は呼気1リットル中0・50ミリグラム以上―と定めた。速度は基準から9キロ以内の差なら、現場の交通量や道路状況に照らし「高い危険性や悪質性」があれば適用できる。
例えば、最高速度50キロの道路を時速100キロ以上で走行した死傷事故は例外なく対象になる。時速91~99キロは状況次第。飲酒は、少なくとも500ミリリットルのビール2~3本で満たす可能性があるという。
現行の規定は「進行を制御することが困難な高速度」「アルコールの影響で正常な運転が困難」。いずれも走行状態の不安定性などを立証する必要があり、法定速度を134キロも超過していた時速194キロ死亡事故をはじめ、各地で適用されにくいケースが多発していた。
全国の被害者遺族から「要件が曖昧」「法が機能していない」との批判が上がり、法務省は24年以降、有識者検討会と法制審議会(法相の諮問機関)で見直しの議論を重ねた。
数値基準の導入に加えて、ドリフトなどの「殊更にタイヤを滑らせたり、浮かせたりして進行の制御が困難な走行」も新たに危険運転罪の処罰類型に追加する。
改正法案は4月17日に先議した参院でも全会一致で可決している。
交通違反の酒酔い運転に「呼気1リットル中0・50ミリグラム以上」の要件を加える道交法改正案も合わせて成立した。
■抑止に期待、検証も必要
<解説>危険運転致死傷罪に初めて「数値基準」が盛り込まれた。被害者だけでなく、捜査機関や加害者をも翻弄(ほんろう)してきた要件が明確となる意義は大きい。
一線を越えた猛スピードや多量の飲酒運転による死亡事故は今後、実刑の可能性が高い同罪で罰される。無謀な運転の抑止につながることを期待したい。
一方で、数値の設定については、被害者団体から「加害者に甘い。もっと引き下げるべきだ」という声が出ている。
法制審議会の部会では「一般道で最高速度40キロ超過」「呼気1リットル中0・25ミリグラム以上」など、加害者に、より厳しい案も提示されていた。だが、刑法学者らは過失の事故が不当に「危険運転」で処罰される事態を懸念し、高い基準の改正案を支持した。
こうした経過を振り返ると、施行後の運用によっては、数値を巡る議論が再燃する可能性もある。
衆院は25日、改正法に付帯決議を加えた。数値基準の適用状況を見ていくように求めたほか、速度とアルコールを測る高精度の方法を考えるように記した。スマートフォンを使う「ながら運転」についても「今後、危険運転致死傷罪への追加を含めた検討を」と言及した。
法は常に未完と言える。残された課題があることを立法府も分かっている。一連の経緯を忘れることなく、改正法の検証を続けていかねばならない。