カメラを持ち、苗の成長ぶりを見守る戸倉江里さん=中津市耶馬渓町樋山路
芸能プロダクション勤務当時、農業・食育部署を担当した。地方の農家らと会話をする中で「便利さより人間としての豊かさが大切」と田舎暮らしに興味を持った。トップアーティストや最先端のクリエーターと仕事し、「やりたい事をやりきった感覚。都会での生活に未練が薄れた」という。「これからの人生を考えたとき、面白くなりそうな町で住民と一緒に盛り上げたい」と思った。
大阪で育ち、妻は鹿児島県の出身。移住先は西日本に絞った。インターネットで調べて目星を付けた中四国、九州30自治体のうち、約半数を巡った。竹田市を訪問した際、たまたま開かれていたイタリアンカフェのオープンパーティーに参加した。Uターン移住者が空き店舗を活用した期間限定のカフェで、伝統工芸家や書家、画家など魅力的な人が集まり、町を盛り上げる姿に熱意を感じた。「この町は面白くなる」と直感したという。
移住で大事な条件となる仕事は、市観光ツーリズム協会で地域の活性化に直接つながる業務に就いた。現在は城下町エリアの空き店舗対策や事業者支援などに携わる。就業を終えて城下町に出れば、多くの知り合いと出会う。今や仕事とオフの線引きが曖昧になってきた。「移住者は自分と同じ価値観を持つ人が多く、腹を割って話せる友人が増えた。この町を選んで間違いなかった」と実感する。
都会暮らしより収入は減ったが、それ以上の価値を見いだして充実した生活を送る。シャッター通りだった城下町には少しずつ、おしゃれな店も増えてきた。「町の雰囲気が変わってきた」という高校生の評判に手応えを感じ始めた。「4年たって、やっぱり町がおもしろくなってきた。引き続き魅力を高めたい」。住民らと手を取り合い、活性化に努めていくつもりだ。
【プロフィル】
大阪市出身。駒沢大学法学部卒業後、カナダ、ニューヨークに留学。CM制作やレストランウエディングの会社を経て芸能プロダクション「アミューズ」に勤務。2013年5月に東京都から移住した。妻と長女の3人暮らし。42歳。