河野真太郎 『階級と「私たち」のゆくえ イギリス映画が照らす連帯の物語』
昨年別府で開かれた講演会で、早稲田大大学院の入山章栄教授が「発想力は移動距離に比例する」と旅好きにはありがたい名言を与えてくれた。旅好きといっても、思うがまま国内外を訪れるほど余裕はない。せいぜい隔年ペースで行きたい地を訪れたいという程度の旅好きである。
ただ老後に夢がある。それは欧州の某地にロングステイすることだ。今のうちに知識を増やしておこうと普段は本から各国各地の文化、慣習や内情をインプットしている。
前置きはこの辺にして、少し前に「東京一極集中」と「階級」について、友人と居酒屋談議をした。欧州は都市が適度に分散しているが、日本や韓国は明るい光に群がるかのように人は首都に一極集中する。その違いは、社会に階級があるかないかによって生まれるのではないか、と友は指摘する。酒を飲みながらのとても大雑把な議論で恐縮だが、なるほど階級か…と妙に心に残った。
同じ頃、大分市のシネマ5でイギリスの巨匠ケン・ローチ監督の映画『オールド・オーク』を見た。シリア難民を受け入れる、イギリスの寂れた町が舞台。住民による排斥と分断と連帯を描き、今の日本にも通じる普遍性を持つ名画だと思った。
映画の翌日、私のインスタグラムのフォロワーさんが、河野真太郎著『階級と「私たち」のゆくえ』を今こそ読むべき本と投稿していた。映画の余韻もありイギリスの階級のことを知りたかったし、先の居酒屋談義のヒントらしきものが見つかるかもと思い、即購入し読み始めた。
約50作の映画と雑多な書物を取り上げ、イギリスを中心に各国で変化する階級と、新しい連帯の形について分析する内容で、ケン・ローチ監督作品も数多く登場する。『オールド・オーク』がこの本の大トリの役を果たしているのには驚いた。本の帯にある問い〈分断された社会で、「私たち」は成り立つのか?〉にふさわしい解答があったかどうかは各読み手が判断するとして、私にとっては階級の仕組みとその変化の歴史は分かりやすく、ストンと腹落ちした。そのすっきり感以上に、居酒屋談議と映画と本が同じタイミングで見事なほどつながった喜びは大きい。もちろん答えはすぐには出ないけど、こんな偶然がこたえられない。
(児玉真路)
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