第2部 トーク セッション(3)

「面白そう」が 未来をつくる

新しいものを作る

 佐々木 わざわざ行きたくなるような店も増えています。ファブラボのように世界とつながっている場所では、未来のものづくりが始まっているのでは。

 豊住 ファブラボは世界に1100を超える拠点があり、その中の半数くらいは「もの」から「バイオ」に、作り出すものがちょっと違うようになってきました。工業的なものだけでなく、違うものも自分たちで作れる、ということです。例えば、バルセロナのファブラボは苔から電気を起こすようなことをしています。こういったことが、民間の人たちが行う趣味の先で起こっています。今まで作ってきたものも大切ですし、新しいものを作っていることも大事。コンピューターがないとできないことも多くなっていますが、人と人がつながることや、機械を混ぜ合わせて、使えるものは使うことで違う世界がのぞけます。

同業者集まり展示

左奥:ハイカウント、エリアスで開発された日田杉を使ったプロダクト商品 中央:佐藤美樹子さんがつくった、竹のアクセサリー。コタケで販売している 右:ファブラボ大分とジェイ・パックで共同開発したメモ帳とノート
 佐々木 ハピカムでもつながりがテーマになっていました。それぞれ、コラボレーションをされたことはありますか。

 仙崎 縫製できる木の布があるんですが、それを見たお客さんが、下の部分が竹で上の部分が木の布というバッグをオーダーメイドで作っていました。これまでの常識を覆すようなアイデアを一般消費者が持っていることもあります。

 佐々木 アクセサリーの場合はどうですか。

 佐藤美 ロットとかの問題があって、個人の工房だと難しい場合があります。

 金谷 以前、数社が連携して別府工芸の展示をしていたのを見ました。同業社が集まって展示するのは、他の産地ではけっこう珍しいことで、別府にはそういった土壌があるんだなと感心しました。
 (会場) 音楽の企画をしています。88歳なので、きっとこの中で一番年上じゃないかしら。いくつかアイデアを出したいのですが、竹のブローチにボタンを合わせるとかどうですか。箱なら、手元に残しておきたい箱をつくってみては。音楽のコンサートでも、思い切ったコラボをするには、人間関係をうまく持っていけば成功できます。皆さん、地道にされているのできっと成功されると思います。

かっこいい義手を

 (会場) 大学でインテリアデザインを専攻しています。クリエーターの皆さんが感銘を受けたり、インパクトを受けた人がいれば教えてください。

 豊住 今、ちょっとしたお手伝いをしている「HACK berry(ハックベリー)」という電動の義手があります。東京で社員3人ほどの小さなベンチャー企業なんですが、義手を必要とする人のために「かっこいい義手を作ろう」と開発し、それを世界の人のためにオープンソース、つまり情報を公開していると聞いて驚きました。プロダクトのデザインにも役立つと思います。

 金谷 工芸業界は働き方改革をしたら消えてしまう業種ではないかと思っていましたが、その中でも非常に驚かされた会社があります。東京の江戸切子の会社「華硝」です。大手の下請けをしていた会社ですが、今はソースが三つあります。一つは直販。下町の工房は2階建てで1階がお店。商品はその工房と日本橋の自社店舗でしか売っていません。二つ目は自分たちの技法を意匠登録し、土産物を作って手ぬぐいとかあめを売っています。三つ目は、なんと自分たちで江戸切子養成コースを開いています。工芸の業界で辛いのが、人に教える時間とお金なんですね。師匠が10年かけて背中で教えていると、なかなか人は育ちません。華硝の学校では5年間で一人前にすることを目指している。工芸業界自体は73%が60歳以上で先代たちの技術をすべて受け継げない時代になっています。IT業界だけでなくて、伝統工芸界にもイノベータ―がいるのは衝撃的でした。

県全体盛り上げる

 佐々木 時間も迫ってきました。今回のハピカムで、こんな作り手が県内にいることを知ってもらって、出していくことで、これからのものづくりを導きたいと考えていました。大分で地域が元気になるにはまず働いている人が元気でいないと。ものづくりをかっこいいと感じたり、興味を持つ人を増やしたい。ものづくりは人間の根源的な働くことにつながる部分だと思います。

 金谷 例えば長崎県の波佐見焼とかは外からどんどん人が集まってきています。Iターンの人が増えるのは「面白そうだから」という理由が大きいと思うんですが、こういった「あそこは面白そうだぞ」というバルーンが揚がると、寄ってくる人がいる。そこで、寄ってきた人が座る椅子があれば移住につながります。

 佐々木 産地としてバルーンを揚げるだけではなく、「その人がいるから」という部分でも人は集まりますね。若い人が「面白そうだ」と思ってくれれば地域の活性化につながります。地域の産業化が進んで人が集まる環境をつくるのが私たちの使命。大分県全体を盛り上げていきたいです。これからの大分のものづくりに乞うご期待です。

編集後記

 どうしたら地域に明るいミライが訪れるのか。ミライデザイン宣言ハピカム第1回「移住と共創」の開催から半年あまり。この間、移住者が県内各地に住み、地域を持続的かつ創造的に変えている現場を取材した。もちろん移住者の力だけで地域は変わらない。地元の人と力を合わせ、その土地の自然や歴史、産業といった地域資源を生かしながら、地域らしさを紡いでいた。とりわけ大事なのは地域の中に働く場所、仕事をつくることだと感じた。
 そこで、第2回のテーマは「人から始まるものづくり」とした。そこに住む人、移住者にしろUターン者にしろ、地域で暮らしていくには仕事をしなければならない。もちろん大分市など都市部の会社に通うという選択肢はあるが、地域に持続可能性をもたらすには地域に仕事をつくることが大切であり、できれば地域らしさを求めたい。そこで、仕事の基本ともいえるものづくりを考えようということになった。
 働くことは経済活動そのものだ。経済には大中小さまざまな循環がある。大きいところではグローバル経済の波。工業県の大分県には新産都指定、テクノポリスの推進で、新日鉄住金、ソニー、キヤノン、ダイハツ九州といった名だたる大企業が進出し、世界を相手にものづくりをしてきた。関連工場を含め、働く人も多い。県民所得も高くなる。しかし、人口減少社会が進み、企業誘致、進出企業の時代は終わりつつある。
 だからこそ小さな経済活動に着目したい。地域レベルの小さな経済の循環をおろそかにしてはならない。人間の身体に例えたらよく分かる。毛細血管が詰まってしまうと、重篤な病気へのリスクが高まる。今回、大分らしさを背負ってものづくりに取り組む人たちに出演してもらった。地域資源を生かしたり、代々伝わる技術を継承する。貨幣の価値を超えた交換や生きがい、地域づくりという点でも意義は大きい。
 アドバイザーには、セメントプロデュースデザイン(大阪市)の金谷勉さんを迎えた。最初に金谷さんの話を聞いたのは今年夏のこと。倒産の危機にあえぐ中小企業の事業者から声がかかれば現地に足を運ぶ。その企業らしさや強みを見つけ、自走の道を示すという。企画・発案からブランディング、販売まで責任を持つことで世の中を何とかしようという心意気を感じた。ハピカムでも金谷さんの話は多岐にわたり、示唆に富んでいた。
 最後に、金谷さんは「面白そうなバルーンが揚がると、人が集まってくる。地域に座る椅子があれば移住につながる」と話した。派手な打ち上げ花火よりも、バルーンは低くても長く上げ続けられる。大きく見れば都市への人口集中はやまないが、移住者であふれる地域もある。面白そうな仕事があれば人は動く。大分には58市町村で一村一品運動に取り組んできた歴史もあり、他と違うことにチャレンジするのは多分得意だろう。どんな彩りのバルーンを揚げていくのか。地域が元気になれば大分県が、日本が元気になる。

ミライデザイン宣言ハピカムコーディネーター
大分合同新聞社編集局次長
佐々木 稔

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