玉田勝美さん(右)から切り絵の指導を受ける産業デザイン科の生徒たち=大分市葛木の鶴崎工業高校
「デザイナーの作成したチラシが、目もくれられずにごみ箱に入れられたら…。想像してみてください」
昨年12月の大分市葛木の鶴崎工業高校産業デザイン科。そんな投げ掛けとともに、チラシを有効活用するワークショップが始まった。将来のデザイナーやものづくりを志す生徒たちの心に響いた。
講師は、豊後大野市三重町向野の切り絵アーティスト、玉田勝美さん(75)。現在でも頼まれれば家具などを制作する。現役の頃は彫刻家として活躍。知られたところでは大正製薬のワシのマークや、牛乳せっけんの牛のマークを考案・制作してきた。玉田さんが木型を彫刻し、それを金型にして大量生産された。
玉田さんは多様な折り込みチラシの柄を巧みに使い分け、精巧な昆虫に仕上げてみせた。小学生の頃、昆虫採集で虫を殺すのが嫌で紙で虫を作って提出したのが始まりという。「同じ虫でも一匹として同じ形はない。よく観察して形にしよう」と呼び掛けた。
玉田さんが一本ずつ研いだハサミと型紙が渡された。最初は戸惑っていたが、手先は器用な生徒たちばかり。こつをつかむとクワガタやカマキリを次々と作った。「イラストでもまずは立体で考えて平面に落とし込む。いつもは幾何学模様の立方体が多いけど、虫は新鮮です」と姫野茉子さん。真嶋康成さんは「細かな作業は得意。臼杵の竹宵で展示する竹のアートにも通じるかな」と考えた。
作品は今年秋、国民文化祭の関連行事として、大分市のいいちこアトリウムプラザに展示される予定だ。
同科には毎年、ものづくりや絵画、デザインを志向する生徒が入学してくる。競争倍率も高く人気は高い。同校によると、卒業生の進路は就職7割、進学3割。就職先は家具・木工、印刷・設計、ウェブデザインなどさまざま。甲斐久夫・学科主任は「県内にはデザインを専門とした業界がまだ小さい。地元志向はあっても福岡などの都会へ出ていってしまう」と話す。
それでも専門職への就職だけでなく、身に付けた技術や感性はいろんな場面で生かされる。「一般企業でもクリエーティブさが求められ、子育てを終えた主婦がフリーで活動するケースも多い」と甲斐主任。山村萌華さんは「かばんや編み物、パッケージデザインも好きです。出来上がったときの達成感がたまらない。ずっとものづくりを続けていきたい」。
伝統ある同科で、ものづくりを志向する若者たちが育っている。