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(1)進化する竹細工

> 伝統工芸士として活躍が期待される中岩孝二さん=大分市の竹工房かわせみ
 ミライデザイン宣言ハピカム第2回「人から始まるものづくり」(2017年12月2日・大分市のコレジオ大分)で、若手の作り手たちがものづくりへの思いを語り合った。伝統工芸の継承や産地化への動き、未来に向けたものづくりなど、若い力が地域を変えようとしている。大分県内のものづくりの現場をリポートする。(7回続き)

 別府市東荘園の市竹細工伝統産業会館が年明けにリニューアルオープンした。展示にICT(情報通信技術)を活用するなど、時代に即した衣替えとなった。人間国宝の生野祥雲斎ら名人の作品が並ぶ中、竹工房かわせみを主宰する中岩孝二さん(41)の「溶岩」が展示されている。34歳で伝統工芸士に認定された若手のホープだ。
 中岩さんは大分市吉野校区に工房を構え、制作に励んでいる。縦横の編み込みを隙間なく仕上げる「網代編み」が専門。網代編みの名手、渡辺竹清氏に師事し、技術を受け継ぐ。
 最近、かやぶき屋根の天井に張ってあった約100年前のすす竹で波網代編みのバッグを制作した。「こんな素材はめったにない。味わい深い」と目を細めた。染めの研究も余念がなく、「竹は染料が入りにくいが、みやこ染めは色持ちがいいし環境にも優しい」と言う。
 現在の目標は、茶道の家元に使ってもらう御所籠を制作すること。「野だての際に茶道具を入れて持ち運ぶ籠です。私自身も茶道を学び、最高の籠を編みたい」と話した。
 中岩さんは「別府竹細工への風向きが変わってきたのはここ数年」と言う。25歳で独立した当時は仕事がなく、先輩を訪ねては量産品の下請けをした。「最近は本物志向が強まっている。中途半端な物は見向きもされない」と実感する。
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 「(生野)祥雲斎先生もおっちゃんという感じでやって来ていました」と振り返るのは別府市流川通りで竹工芸「山正」を営む片山マサさん(65)。お客と作り手の間に立ち、真っすぐに竹製品と向き合う。
 「竹細工の芸術性が海外で評価される契機となったのは、13年に米国のギャラリーで開かれた企画展です」と片山さん。若手作家がオブジェやハンドバッグ、ネックレスなどのデザインや染めの研究を重ね、出品。米国のコレクターらが竹の素材感やデザインに注目した。それからだ。国内外の有名ブランドがこぞって竹に触手を伸ばし始めた。
 それでも片山さんは言う。「オブジェもいいが、まずは技術の継承。今なら優れた先輩がいる。確かな技術を受け継いでほしい」
 店は大正期以来の旧店舗を取り壊し、春にリニューアルオープンする。片山さんは「うちには優れた製品がたくさんある。まだやめられません」と話した。
 別府竹細工は新旧の技術をどう融合させていくのか。今まさに“進化”が起きようとしている。

記事・用語解説

別府竹細工

県内唯一の伝統的工芸品(1979年認定)。起源は室町時代。行商用の籠が始まりとされる。明治時代には湯治客が台所用品として利用するなど、暮らしを支える製品を作る一方、技術の粋を極めた工芸品としての評価も高い。竹製品の製造部門の就業者は昭和50年で8千人いたが、現在は700人強。