第1部 キーノート セッション

流れは起きている

 基調講演に当たるキーノートセッションとして、アドバイザーを務める宝島社「田舎暮らしの本」の柳順一編集長と、コーディネーターの大分合同新聞社の佐々木稔・編集局次長が対談した。20年にわたって移住に関する現場取材を続けてきた柳さんは、近年の移住をどう見ているのか。全国の状況や先進地事例、移住者のニーズなどから「移住の今」を探った。

ランキング1位に

アドバイザー 柳 順一氏 宝島社「田舎暮らしの本」編集長
 佐々木 柳さんは宝島社「田舎暮らしの本」編集長として、「住みたい田舎ベストランキング」など、独創的でありながら移住者に寄り添った視点で雑誌づくりをされています。近年、移住の波が大分にも来ていると聞きますが、実際はどうでしょう。

 柳 最近の状況でいうと、移住者数は増えています。認定NPO法人「ふるさと回帰支援センター」の1月から5月の間の相談件数が昨年同月比ですべて増加。昨年は大分県も移住者が768人と増えています。本誌愛読者ハガキによる「移住したい都道府県ランキング」でも、10位前後をキープしています。大分県は移住地として人気があるといって間違いないです。自治体アンケートによる「住みたい田舎ベストランキング」は、移住地として魅力的なところを広くお知らせしたいということでやっています。第1回の調査で豊後高田市が1位、第2回で宇佐市が1位、豊後高田市は5年連続で3位以内に入っており、大分県の他の市町村も多数ランクインしています。

 佐々木 1位と言われると「本当なのかな」と思うところもあって。総合的なランキングなんですよね。

 柳 はい、アンケート項目は幅広いです。移住希望者のニーズを項目にしています。施策に関する項目も多いのですが、それは移住者の受け入れに熱心な地域は施策が充実しているだろうと考えたからです。

20〜40代が増える

コーディネーター 佐々木 稔 大分合同新聞社編集局次長
 佐々木 「田舎暮らしの本」は1987年に創刊したと聞いています。

 柳 今年で創刊30年、うちの会社の中でも一番長く続いている雑誌です。それは、自分で食べ物を育てるとか、地域の祭りに参加するとか、手応えのある暮らし、地に足のついた暮らしに対する憧れが、時代を超えた普遍的なものだからでしょう。ただ僕が入った20年ほど前は取材先を不動産業者さんに紹介してもらうことが多く、若い移住者は少なかったです。「定年後の悠々自適な田舎ぐらし」が主流でした。

 佐々木 流れが変わったということでしょうか。

 柳 さかのぼると、団塊の世代の退職に合わせて移住相談窓口の設置が広がりました。2007年には一般社団法人移住・交流推進機構(JOIN)が設立。しかし、雇用延長もあり、「思ったほど戻ってこない」というのが自治体の実感だったかと。08年にリーマンショックが起こり、若い人の就職が難しくなります。地域おこし協力隊の制度が始まり、現在は全国4000人弱、900弱の自治体で活動しているといわれています。東日本大震災の後、疎開移住という言葉が生まれ、若い人が田舎に行く流れが目立つようになりました。今では若い移住者の姿を過疎地で見ることは珍しくありません。

 佐々木 移住者の多くが30代、40代と聞いています。

 柳 確かに比率が変わっています。ふるさと回帰センターの調査で、かつて7割がシニアだった時代から、今は7割が20~40代。もちろん人数も増えています

 佐々木 意識の変化でしょうか。

 柳 われわれの若いころとは、ずいぶん違いますね。例えば車とか。所有に関してこだわらないし、シェアとかソーシャルでつながることへの意識が高い。若いんだけど成熟している。ある意味、まともともいえます。現在の日本経済で、地方の方に明るい未来を見る若い人が田舎に来ているのでしょう。

集落ビジネスが鍵

 佐々木 すでに動きは始まっているので、若い人の意見をきちんと聞かないといけないですね。山陰や高知は移住の先進地といわれていますが。

 柳 藤山浩氏が記した「田園回帰1%戦略」には島根県の事例が上がっています。人口維持のモデルとして、毎年、人口の1%の定住者が必要だといわれています。20代前半の男女、4歳以下の子どもがいる30代前半の夫婦、定年後の60代前半の夫婦がバランスよく入ってくれば、30年後、総人口と14歳以下の子どもの数は現在の9割以上が維持できるとされています。高いハードルだとは思いますが、一つの目安になるのでは。移住実現には、仕事、住まい、受け入れ態勢を整えることが重要です。移住したい人がいるのに期待に沿えないこともあると聞いています。とくに仕事は難しい問題です。都市部のように「求人」という形で出てこない中山間地では、地元の人のニーズをベースにする「集落ビジネス」が基本になります。例えば、三重県鳥羽市の答志島ではUターンの若い夫婦が「島のパン屋」を開店しました。地元の高齢者や、漁師の人の船の上での食事としてニーズがあるんです。

心を動かす出会い

 佐々木 私の田舎はスーパーがなくなり、買い物難民が生まれました。何らかの形で商店的なものが復活するかもしれないし、それは仕事になり得ますね。危機感がないと動かないかなとも考えています。

 柳 「地方消滅」という言葉がありましたが、実際に小学校がなくなることに危機感を抱いて地域ぐるみで頑張って、児童の過半数が移住者の子どもという小学校もあります。施策も重要ですが、いい人と出会って、「この人たちと住みたいな」という感動が必要です。「心が動かないと住民票は動かない」ということです。楽しい出会いがないと、移住までは行きつかない。移住の決断は、施策だけでは促せないんです。

 佐々木 心が動かされる出会い。確かにそうですね。

 柳 実際にはうちの本だけ見て住民票を移す人はいません。セミナーや相談会に行く中で、地元の人と初めて出会うという点で役場の人の役割は大きいです。移住までのプロセスは長く複雑です。そんなに簡単にはいかないです。

 佐々木 人生をかけて慎重に選ばれているんですね。移住はブームですか?

 柳 一過性のブームではないでしょう。田舎暮らしへの憧れは普遍的で、自治体というルートもできたので今後もこの流れは止まらないと思います。地方への移住は、東京の問題でもある。東京の少子高齢化は速く、巨大な規模です。医療も介護も一都三県では支えきれないという予測がある。さらに震災のような出来事があれば、どっと人は動くでしょう。

「地方消滅」の予測

大分合同新聞報道部 加納慶記者
 佐々木 日本創生会議の増田寛也座長が「地方消滅」予測を発表した「増田リポート」について東京で取材経験がある記者にも聞いてみましょう。

 加納 14から15年に東京勤務をしました。増田リポートの取材を地方紙の記者が集まってしたのですが、地方の危機感は強かったです。それから「地方創生」という言葉が出て、アンテナショップから移住相談や窓口が増えていきました。

 佐々木 増田リポートはこんな失礼な話があるのかと思いました。国が地方を効率的に動かすためのものかと思っていましたが、その後いろいろな動きが加速しました。

 柳 確かに乱暴な話です。ただ増田リポートのずっと以前から、地方は人口減少、少子高齢化と向き合ってきました。東京はこれからその問題に突っ込んでいくことになります。そう考えれば、効果的な手を打つ中山間地域が先進地になり、明るい未来を描ける可能性があります。すでに成果を挙げている地域も出てきています。

 佐々木 人の流れは確かに起こっています。大分でも、この動きをもっと大きくしていかなくてはりませんね。

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