スタート地点となったJR夜明駅のホームで記念写真に納まる元寮生ら
貧乏学生だった寮生は、遠方にいる恋人の元へ行く交通費がひねり出せなかった。だが、どうしても会いたい――。男は決断した。「歩く!」。夜を徹して福岡県から日田市まで――愛する人の住む街へ。
この寮生の壮挙をたたえて始まったとされるのが、九州大学松原寮(福岡市東区=大学移転に伴い閉寮)が主催した「日田行進」である。同県筑紫野市を夕刻に出発し、約50キロを夜通し歩いて一路日田市へ。女子寮を含む同県内の他大学寮からも参加者を募り、さながら「歩く合コン」であった名物行事は、昭和から平成の初めまで20年以上続けられた。夜道を集団で進む非日常の体験が、数々のロマンスを生んだ一方で、長距離を踏破した達成感と充実感は、学生時代の思い出として深く刻まれた。
10月11日、ロマンスからはすっかり縁遠くなったが、青春のロマンは抱き続けている元寮生らが「令和復活 日田行進」(九州大学学生寮同窓会主催)を企画、13人が参加した。当時のコースで一時休憩と「夜明けの朝食」場所だったJR夜明駅(同市夜明)。ここからは列車移動組とマラソン移動組に分かれ、それぞれゴールの温泉ホテル(同市隈)を目指していた。復活イベントはこの約8キロの「ラストワンマイル」で、参加者の年齢に配慮し昼間に実施した。樋渡和浩同窓会長の掛け声を合図に夜明駅をスタート、思い出話をBGM代わりに三隈川左岸沿いをゆったりと堪能した。この日の日田は30度超えの最高気温を記録する暑さだったが、誰もリタイアすることなく2時間ほどかけて無事、みくまホテルまで完歩した。
かつては立ち寄り湯と仮眠所でのみ利用させてもらった同ホテルだったが、今回は宴会付き。学生時代の経験を糧に人生を大きく実らせた参加者全員に「完穂(かんほ)賞」と樋渡会長からの副賞を贈呈。最後は同大田島寮(福岡市城南区=同じく閉寮)の「団結踊り」で締めた。
漫画「進撃の巨人」作者の出身地であることから、ファンの聖地となっている日田だが、九大学生寮出身者にとっては別の意味での聖地である。「令和復活 日田行進」で踏み締めた一歩一歩が、濃密な日々を過ごした在学中の記憶を呼び覚まし、心が清められる、まさに「巡礼」となった。