オンライン教育について語るスタンフォード大オンラインハイスクール校長の星友啓さん=大分合同新聞社
学校や家庭で、子どもたちがタブレットなどの端末を使って学ぶ機会が定着しつつある。オンライン学習を有効に活用するには? 米国の名門・スタンフォード大が開設している「オンラインハイスクール」の校長、星友啓(ともひろ)さん(47)は大人の役割が大切だと説く。12月初めに大分合同新聞社を訪れた際に聞いた。
―子どもがオンラインで学ぶ時に大人が気を付けるべきことは。
「オンライン学習は、教材と生徒、教師と生徒の間で一方通行になりがち。子ども同士や、子どもと教師との間でコミュニケーションを生み出すことが重要だ。授業をつくる時には、画面や教材の向こうにいる人同士をつなげる意識を持つといい」
「オンラインでもさまざまなコミュニケーションのレイヤー(層)がある。顔出しせず音声だけでやりとりすることもできれば、文字のやりとりで即答を求めないということもできる。多層的なコミュニケーションの場面をつくってあげると、子どもは参加しやすくなる」
「オンライン学校を始めてすぐ、生徒同士の関係性を構築するのに対面の場が必要だと気付いた。時々合宿などで顔を合わせる機会を設けると、オンラインに戻った時に生徒同士のつながりが広がっていくのを感じる」
「どれくらい対面の機会が必要かは子によって異なる。その子にとってオンラインと対面のバランスが取れていることが重要だ。一つの教材やスクールでバランスを取るのは限界がある。その子が置かれている環境全体を見てほしい。対面の機会が少なければ、習い事や地域の活動などでつくってあげるといい」
―教育現場では生成人工知能(AI)をどう使うべきか模索が続く。よりより使い方は。
「AIを使う場面と使わない場面をしっかり区別すること。AIを使いこなす方法を身に付けることは大切だが、同様に計算や読み書き、コミュニケーションなどは自力でできるようになる必要がある。AIを使わずに、子どもが脳を使って学び、成長する場面を大人が担保すべきだ。学校が果たすべき役割の一つがここにある」
―子どものやる気を引き出すには。
「大人は『子どもがやりたいことをさせる』と考えがちだが、順番が逆。いろいろやってみる中でやりたいことが出てくるもの。未体験のことでも大人が背中を押してあげてほしい」
「目的意識があり、行動に移せている若者は非日常の体験が多い―という研究結果がある。そこで見聞きしたことがきっかけで、目的意識が生まれ、やる気が湧いてくる。いつもいる空間からいかに抜け出すか。オンラインでもそのチャンスを増やすことができる」
「学校だけでなく、習い事など複数のコミュニティーに属していることが子どもの自己肯定感を育てる上で鍵になる。もし学校でうまくいかないことがあっても、別の顔がある習い事で自己肯定されれば、うまくいかないことにも向かっていける。1人が持つ顔は5から7くらいが適当だという説もある。大人はこのような視点を持って子どもの様子を見てあげるといい」
【プロフィル】ほし・ともひろ 1977年、東京都生まれ。2001年に東京大文学部思想文化学科哲学専修課程を卒業し、翌年に渡米。08年、スタンフォード大で博士号(哲学)取得。同大で哲学部講師として教べんを執りながらオンラインハイスクールの立ち上げに参加。16年から校長を務める。著書多数。米国カリフォルニア州在住。