2024年度地球さんご賞・幻冬舎賞に輝いた丸山泰生さんの作品と挿絵
私は蚊が嫌いだ。小さい頃から蚊に刺されることでリンパ管炎を発症し、場合によっては激痛で歩けなくなることもあるからだ。そのため毎年夏が来ると不安になる。虫刺され程度の些細なことなので、周りの人の理解はなかなか得られないが、一度重症化すると本当に厄介で、蚊は私の天敵なのだ。
実は、蚊とどう向き合うのかは人にとって重要な意味を持つ。世界では蚊によって死亡する人が七十二万人以上もいるそうだ。熊や虎など危険な生物は多くいるが、人間を一番殺しているのは蚊である。蚊はジカ熱やデング熱など命に関わる病気を媒介する。
そんな蚊が、温暖化によって増えている。以前なら春や秋に生息しなかった蚊は暑さが長引くことにより生息期間を延ばし、その生息範囲を広げている。より多くの人が危険にさらされるのだ。
私の所属している自然科学部では自分の興味関心で自由に研究できるため、天敵の蚊の生態を調べることにした。敵を知れば対策できることも増えるからだ。蚊の好むもの、嫌うものを研究し、蚊をおびき寄せまとめて駆逐できるものを発見し、世の中から蚊を減らせば、助かる命も格段に増えるはずである。
私の実験は、まず蚊を捕まえるところから始まった。そのために蚊に刺されるという恐怖とも戦わなければならない。なるべく蚊に刺されないように捕獲に挑むが、それでも刺されてしまう。蚊は隙あらば私を狙うのである。蚊は足裏の臭いに引き寄せられるという情報を得た私は、足裏の臭いの成分に「イソ吉草酸」というものがあり、納豆にはそれとよく似た成分があることが分かった。それを活かして納豆を用いて蚊を集められるか実験をしてみた。しかし、蚊は納豆には反応せず、他にマスタードや醤油を用いても、期待していた結果は得られなかった。
また、蚊の幼虫である赤虫の研究も同時に行っている。赤虫はユスリカの幼虫で、血を吸わない種の蚊の幼虫だが、釣りの生餌として入手しやすい。赤虫はどのような環境で生きるのか。いくつか状況を作り出し、弱点についてデータをとっている。これらが判明できれば他の蚊にも応用できるかもしれない。
祖父は、「昔はこんなに暑くなかった。夏でも朝夕は涼しかったし、しっかり四季があった。」と言っていた。たった数十年で環境は変化する。温暖化の原因と言われる温室効果ガスは、地球を温かく保つために必要なものだ。しかし、産業革命以降、生活が便利になると同時に多くの二酸化炭素が排出されバランスが崩れ地球の温度が上昇し生態系を乱してしまった。蚊の増加もそのひとつだ。
人間の生活を豊かにするのは大事だが、それに伴う環境の変化で、今までにない問題が浮上する。変化とともに、新たな課題と解決策を探し見つけなくてはならない。簡単には研究の成果は出ないが、引き続き研究を進めていきたい。