2024年度地球さんご賞・荻原浩賞に輝いた有田茜さんの作品と挿絵
大分合同新聞社は創刊140周年を記念して、歴史小説家で直木賞作家の安部龍太郎氏らと、環境問題を考える作文コンクール「地球さんご賞」に取り組みます。過去の受賞作品を、Gateインパクトで順次、紹介していきます。使用している漢字や表現は、作品のまま掲載します。
遠目に見ていました。森の奥深く、静かだった場所には木を切る音が響いていました。とても嫌な音だったけど、それを止めに行くことはできません。お母さんに、行ってはいけないと言われていたからです。木を切っている人間さんたちのところへ行ったら、銃で撃ち抜かれてしまうそうです。
だから、その音が聞こえたら私たちは遠くに走ります。それが居場所を奪われる音なのに、何もできないまま走ります。それは生きていくうちに当たり前のことになりました。
だけど、時々考えてしまいます。人間さんは私たちのすみかを奪っていくばかりで、私たちには何も返してはくれません。ただ奪われていくだけです。
だから、それはちょっとずるいんじゃないかって思う時があります。損をするのは私たちばかりです。人間さんたちは私たちから奪うだけ奪っていく。
だけど、私たちは受け入れるしかありません。
ある時、あまりにもすみかがなくなってしまって、同じ熊と縄張り争いをすることになりました。頑張ったけど、私たちは負けてしまいました。だから、私たちのすみかはついに完全になくなってしまって、私たちは森を出て行かなきゃいけなくなりました。
けれど、森以外に私たちの居場所はありません。森でずっと生きてきたのに、他の場所では餌のとり方も安心して寝る方法も分かりません。私たちはどうすればいいのか分かりませんでした。迷った私たちは、行くあてもなく森を離れて行きました。
しばらく経って、私たちは家がいっぱい建っている場所を見つけました。よく目をこらすと、人間さんたちの姿が見えます。
私は習慣的に逃げようとしたけど、お母さんは私を止めました。もう私たちに逃げる場所はないし、お母さんも私も体力が限界でした。それに、私たちから攻撃しなければ、もしかしたら人間さんも何もしないかもしれない。お母さんは行こうと言いました。
私はそれに従って、人間さんたちのもとへ歩きました。もしかしたら、なんて淡い期待をもっていました。
人間さんに近づこうとした時、ぱあん、と乾いた銃声が響きました。次の瞬間、前を歩いていたお母さんが地面に倒れました。
何が起こったのか理解した時、私は頭に血が上りました。人間は何もしていないお母さんを撃ちました。私たちのすみかを奪うだけに飽き足らず、お母さんの命まで奪っていきました。私は撃った人間に襲いかかろうとしましたが、届くこともなく銃が私を打ち抜きました。
ずるい。人間はずるい。私から全てを奪っていく。もし生まれ変わるなら人間にだけはなりませんように。