『彼方の友へ』伊吹有喜著 真っ直ぐに美しい小説

 この傑作の誕生を言祝ぐ! みたいなフレーズを見かけると、一体どんな目線なんだと思ったりするが、今回はまさにそんなことが言いたくなるような作品なのである。

 デビュー作からリアルタイムで読み続けてきた作家が迎えた、一つの到達点。いやもちろんこれまでも一作ごとに到達はしてきたのだけれど、その過程で重ねてきたものが見事に結実し、大輪の花を咲かせた瞬間を目撃できるのは、同時代の小説を読むもっとも大きな喜びの一つだと私は思う。

 物語の始まりは昭和十二年。戦争の気配が色濃くなっていく中で、東京に住む16歳のハツは、歌や絵、詩などの芸術に心を寄せる少女である。女学校に進む経済的余裕がなかった彼女は、西洋音楽の私塾を営む家で女中として働きながら、歌とピアノのレッスンを受けている。しかし時勢のあおりを受けてその私塾もたたまれることになり、ハツは身の振り方に悩んでいた。

 そんな折に親戚のおじさんからすすめられた働き口は、なんと憧れの少女雑誌「乙女の友」編集部。雑誌の主筆であり美しい詩を書く作家・有賀憲一郎のもとで雑用係をやらないかというのである。

 時代遅れの着物に身を包み、母の用意した芋まんじゅうを携え、銀座の編集部に足を踏み入れるハツ。そこで彼女を待っていたのは、最先端のファッションに身を包み、全国の少女たちへ向けて真に美しく、価値のある誌面を作ろうと奮闘する人々だった……。

 貧しくて孤独な少女のビルドゥングスロマンであるこの物語は、ハツが「乙女の友」編集部の中で迷い悩み苦しみながらも、自らの才能を開花させていくという方向へと展開していく。とはいえ時代が時代である。美しいものは抑圧され、世の価値感は変化を強要されていき、ハツの青春にも暗い影がさすこととなる。しかしそれでも彼女たちは、「乙女の友」を待つ全国の少女たちに向け、「最上のもの」を届けるという使命を忘れることはないのだ。

 美しさを必要としているのは少女ばかりではない。そして雑誌も小説も詩も音楽も、生活というものさえも、美しさを求めることによって完成に向かうのである。と、こんなことを臆面もなく語りたくなるほど、私はこの物語に感化されている。そんな自分が誇らしく思えるくらい、この小説は真っ直ぐに美しいのである。

(実業之日本社 1700円+税)=日野淳

2017年12月15日

新刊レビュー

本の世界へようこそ!注目の一冊を、やさしく厳しく批評します。

OPENCLOSE

速報ニュース

ニュースアクセスランキング 0時1分集計

ランキング一覧を見る

大分合同新聞ニュース絞り込み検索
記事の絞り込み検索が可能になりました!

期間選択
ジャンル選択
記事種別選択

大分県の天気

PM2.5情報
大分県の測定データ大分市の測定データ
大分合同福祉事業団
インターネットによる募金「かぼす募金」を受け付けています
ぶんぶん写真館
記者やカメラマンが撮影した写真を閲覧・購入できます。
大分合同新聞
販売店検索はこちら
お近くの販売店を今すぐ検索!
HELLO KITTY×大分合同新聞
おともだちカード
「大分合同新聞 HELLO KITTY」が大切なあなたの気持ちをお届けします。

全てのお知らせを見る

電子書籍のご案内

ページ上部へ戻る