ビジネス書が好きだ。
正確に言えば、ビジネス書が並ぶ書店の棚が好きだ。読者が集う書店には、オンラインのクリック数とは異なる熱がある。
トレンドの影響を受けるビジネス書のコーナーは、本を実際に手に取り、価値に納得して対価を支払う「顧客の選択」の場。日々新刊に触れる書店員というプロの目を通った書籍が棚に並べられる。
限られたスペースでいかにニーズに応えるか、読者と書店員、そして出版社の思いが交差する駆け引きの場でもある。
書店に行くと、まず目線の先にあるおすすめ本を見る。次に平積みを確かめる。気になるジャンルがあれば、著者名やシリーズ名を手がかりに書架をたどる。
表紙は、時代の空気を映す。もちろん文芸書にも装丁の流行はあるが、ビジネス書のほうがさらに分かりやすい。
「お金の不安をなくしたい」「人に嫌われたくない」「無駄な努力をせずに、もう少しうまく生きたい」―言葉にすると身もふたもないが、ビジネス書が扱っているのは、そうした人間の切実な願望や欲望だ。
人々が欲しているもの、あるいは欲していると気付いていないものまで、タイトルとデザインに巧みに落とし込まれ、「書籍」という商品ができあがる。
タイトル、表紙デザイン、帯の三つで「本の顔」は構成される。近年のビジネス書を追っていると、タイトルにはいくつかの大きな流れがあるように思う。
目立つのは「お金」「言語化」「時間の使い方・習慣」「AI」「マネジメント」だろうか。加えて、ヒット作のタイトルを横展開した作品も多く目にする。「○○する人はうまくいく」「○○が9割」「感じのよい人の○○」「できる人の○○」といった言い回しは、ひとつの型として複数作品が出版されている。
次にデザイン。ビジネス書の棚は、他のジャンルに比べるとシンプルに感じる。
白や青といった単色を基調に、黒い文字でタイトルを際立たせる表紙が多く並ぶからだ。余計な装飾を削ぎ、言葉を真っすぐ読者に届けようとする。最近は柔らかいイラストを起用したものもよく目にする。
帯にも主張がある。今並んでいる本の帯は、大きさもさまざま。一般的な帯もあれば、表紙の半分から3分の2近くを覆うものもある。著者の写真入り、著名人の推薦コメント入り、ランキング順位や発行部数を大きく打ち出したもの―など、限られた紙幅の中に、出版社の心意気と工夫が詰まっている。
働く人の課題解決に役立つものをビジネス書というなら、その範疇はかなり広い。仕事の技術を学ぶためだけでなく、人生の整え方まで引き受けているのが今のビジネス書なのだろう。
私たちの願望は次にどこに向かうのか、身近にある正直な棚から読み取っていきたい。 (渡)
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