時速194キロ死亡事故の控訴審で、危険運転致死罪の成立を認めず過失運転致死罪にとどまると判断した福岡高裁判決の要旨は次の通り。
【主文】
一審大分地裁判決を破棄する。
被告を懲役4年6月に処する。
【妨害目的の運転に当たるかどうか】
一審判決が示す通り、妨害目的とは相手方に自車との衝突を避けるために急な回避措置を取らせるなど、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいう。
いまだ視界に入っていない不特定の車両の通行を妨げるかもしれない、という抽象的な可能性の認識だけでは足りず、少なくとも、相手の車両の存在を認識した上で、あえて通行を妨げることを確定的に認識していた必要がある。
本件の全証拠を見ても、被告が、交差点で対向右折を始めた被害者の車両を認識した上で、あえてその自由で安全な通行を妨げることを確定的に認識して交差点に進入した―とは立証されていない。
妨害目的があったとは認められない、という一審判決に誤りはない。
【「制御困難な高速度」に関する説明】
危険運転致死傷罪は、危険性が高い運転により人を死傷させた場合の全てを処罰の対象としているものではない。危険運転を故意に行い、それによって人を死傷させた行為を過失運転致死傷罪よりも重く処罰するため、危険性が高い類型の一部を抽出し、これに該当する運転で人を死傷させた場合に限って適用されるものである。
そのため、制御困難な高速度に該当するかを判断する際も、過失犯として処罰すべき類型との区別という観点が重要になる。
走行速度が速くなればなるほど、危険を回避することが困難となる危険性(対処困難性)は高くなる。しかし、このような危険性は、危険運転罪を定めた自動車運転処罰法上の制御困難性(自車を進路から逸脱させないように走行することが困難となる危険性)とは質的に異なっている。
制御困難な高速度とは、具体的には、そのような速度で走行を続ければ、道路の形状や路面の状況、車両の構造や走行性能などの客観的な事実に照らし、当然に、あるいはハンドルやブレーキの操作のわずかなミスにより、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度をいう。
それに該当するかどうかは、危険回避の対処が困難な速度だと認められるだけでは足りず、あくまでも自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度、あるいは自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度だと認められるか、といった観点に基づいて判断される必要がある。そうでなければ、危険運転罪の適用範囲が拡大され、速度超過による過失運転罪との区別に支障を来すことになる。
危険運転罪の立法当局者は、制御困難な高速度について、他の走行車両などが判断要素となることを否定していた。他の走行車両の存在を要素に含めることは類型的、客観的であるべき判断にそぐわず、他の車両の動静や自車の進路に及ぼす影響の予測が求められることになり過失犯における予見可能性の有無との区別が曖昧になる。
【一審判決への評価】
以上を前提として一審判決を検討すると、路面状況によって車両にどのような影響が生じるかについて具体的に何の立証もなされておらず、道路の形状や構造から、被告の車両が走行していた車線を逸脱する事態が生じるとは直ちには想定し難い。
一審判決は、道路の改修舗装歴が15年以上ない点や交差点付近にわだちが存在していた点などを指摘する。一般的に道路に凹凸がある場合、高速度で走行した際に車体が揺れる可能性があることは首肯できる。しかし本件の制御困難性を判断する局面では、道路の具体的状況と、それが被告の車両に与える影響が重要であり、一般的、抽象的な可能性を指摘するだけでは立証として不十分である。
交差点に右折車両や減速する先行車両、横断歩道を渡る歩行者があり得る点については、他の交通主体が判断要素とはなり得ないから、右折車両の存在を前提としたハンドル操作などのミスを想定する余地はない。
一審判決は、具体的でない抽象的な可能性を指摘し、あるいは考慮すべきでない事情を考慮するなどして、危険回避が困難だという対処困難性を基にした危険性を捉えて制御困難性を判断したものと言わざるを得ない。制御困難な高速度を肯定するに足りる立証がなされたとは認められない。
被告の運転が日常用語としての「危険な運転」であることは明白であり、また、現行の規定は均衝の取れた処罰が実現できていない懸念もあると言わざるを得ないが、こうした点は、立法的手当てによって対応すべき事柄と思われる。
【過失運転罪に対する判断】
予備的訴因である過失運転致死罪については、一審で被告、弁護人とも成立を争っていない。一審で取り調べられた証拠によって証明は十分である。
【量刑の理由】
危険運転致死罪の成立は認められないものの、その運転は極めて危険かつ悪質だったと言うほかない。被告の刑事責任は相当に重い。
しかし、問われるべき罪責は、故意犯ではなく過失犯である過失運転致死罪である。被告の常軌を逸した身勝手極まりない運転によって大切な親族を突然失った遺族の心情は十分に考慮すべきではあるが、同罪のこれまでの量刑の傾向や刑の実質的公平の観点を踏まえると、主文の刑が相当である。
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