ひと、まち、暮らし、文化――。変わりゆく泉都・別府市のリアルな「素顔」を描写した長期連載。
※大分合同新聞 夕刊社会面 2007(平成19)年10月22日~2009(平成21)年3月14日掲載
秋の虫たちが「求愛」のハーモニーを奏でている。 暑くもなく、寒くもない風がアンツーカーのコートに舞う。 長月。いい季節だ。...
「そーらここん湯はいいで。帰ってんポカポカが抜けん」 「わたしら? そらアンタ、こげして話するんが日課じゃわ。...
明治、大正、昭和、平成。 それぞれの「時代」を活写してきた書物が、古びた本棚に眠っている。 「活字文化は廃れて隅っこに追いやられる一方や。古本屋業? そら先細りやわ」 大野書店(弓ケ浜町)の店主、大野都生く...
品を売る。技や知識を提供する。その対価として市民から「笑顔」を受け取る。...
ニシキゴイは奥深い。 スタイルは秀麗か。色彩は鮮明か。模様に品があるか。 「いでたち」は一見してスマートで、かつ威風堂々としていなければならない。 キリは10円、ピンは億のマネーで取引される日本国魚。...
この道約30年。商売柄、いろんなエピソードがある。 例えば――。鍵をなくした家主の依頼で玄関を開けていると、パトカーに囲まれ警察官に取り押さえられた。通報者は、家にいた家族だった。 ある日――。「マンションの鍵を開けてください」と...
何とも言えない”天然の甘味”にあこがれた。 「そん当時、はちみつは高級品でな。あの甘さは貴重なもんじゃった」 半世紀以上も前。19歳の春だった。...
いきなり聞いた。 ―おもちゃとは? 「生活をエンジョイするためのものです。つまりはトッピング。日々を楽しむための隠し味みたいなモンです」 ―と、言うと? 「だって、殺風景な部屋に縫いぐるみが1個あるだけで和むでしょ? なく...
畳のことなら、九州・別府の「ナガトタマキ」さんに聞け。あの人なら何でも知っている――。 長門一磨タタミ総本店(古市町)の2代目、長門環は78歳。60年以上のキャリアを持つ現役の職人だ。 世代交代が進む業界にあって、全国の事業組織・...
天から授けられた職業。 彼の場合、この仕事は「天職」に違いない。 アフリカンサファリ(奥別府)の”名物”獣医師、神田岳委いわい(39)。 「毎日が幸せっスよ」 ...
94歳とは思えない。 「とにかく、昔のモンは見て美しいわな。職人の技が凝縮されとる。感心するで。ようこん時代まで無事に生きちょったな、てね」 藤原竹男。大正3年生まれ。ひょうたん温泉前の鉄輪東で、「古美術ふじや」を営む現役の古美術...
車が行き交う。 道路端の店先。地元住民が足を止め、ショーケースをのぞき込む。 「今日は何があるかえ?」 地域密着の伊藤鮮魚店(荘園)。対応は早い。 「何でんあるで」 威勢のいい言葉に、おしどり夫婦の笑顔が付いてくる。 ...
「緑」を置く。 すると雰囲気が和らぎ、不思議と気分も落ち着く。 マイナスイオンや視覚的な効果もあるだろう。ともあれ、緑の植物がそばにある――そう思う「心のゆとり」が最大の効能なのかもしれない。 ♨ 春...
大分県の、あるいは泉都・別府の音楽文化を語る上で「ヱトウ南海堂」(駅前本町)は欠かせない。 戦前、朝鮮半島でレコードを販売していた江藤茂(佐伯市出身)が県南で創業した。 昭和6年に大分市中央町、その3年後には湯の街の中浜筋に進出す...
人気者だった。 バドミントンに明け暮れた別府鶴見丘高校時代。廊下を歩くたび、下級生の女子生徒が振り向いた。 かつてラケットを握った手は、今、日本古来の伝統菓子を紡ぎ出す。 繊細な味。可憐かれん
あの場所に立ちたい――。 そう思い続けたステージの中央で、毎晩、スタンドマイクに向かっている。 約30分のライブを終えた「アユミ」は、ドレス姿でいすに腰掛け、呼吸を整えた。 「あぁ……楽しかった」 ♨ ...
テーラー一筋。かれこれ半世紀以上がたつ。 「何てったって手縫いは形が壊れん。着ちょっても全然、疲れたりせんよ」 ハギワラ洋服店(上田の湯町)のオーナー、萩原昭彦は昭和9年生まれの74歳。 「背広は身だしなみ。...
何でも売っている。 野菜、果物、パン、菓子、調味料、洗剤、切り花……。 「今はもう、スーパーやドラッグストアに客を奪われてしまったけどね。何とかほそぼそ、やりよります」 天満町の井商店。店主の井徳幸(75)は「ま、いわゆる地域...
平成9年だった。 別杵・国東地域を対象にした職業別の電話帳。そこに「筆耕サービス」という名の職種が記載された。 いわゆる“代筆業”を商売にしたのは、印刷会社に長年勤めた三浦ユミ子(73)。 定年退職を機に、小倉の自宅で起業した...
昭和2年創業の三京電気商会(北浜1丁目)は、庶民の“SOS”に応える「下町の電気屋さん」だ。 山田周作(60)は老舗の屋号を守る3代目。みんなに「シュウちゃん」と呼ばれ、親しまれている。 ♨ 大学は文系だ...
ポーランドの南部、サイリジア地方で生まれ育った。 ソーリヒ・ピオトル(49)はカトリック別府教会(末広町)の主任司祭。来春で泉都在住12年目を迎えるサレジオ会の神父である。 ♨ 20年前、宣教師として来日...
「現在」を「過去」の記録として「未来」に残す。 大正5年創業の木村写真場(石垣東)。代表の木村裕次(57)は3代目だ。 「月日を重ねると光り輝く――それが写真の魅力です」 ♨ 長崎県島原出身の祖父・栄...
努力、奮闘、功績。 その栄誉をたたえる「証し」として授与される。 トロフィー、ブロンズ、カップ、盾、メダル……。 記章とは、その人が光り輝いた瞬間を後世に伝える「記念の印」である。...
地元っ子がやって来る。 「おいちゃん、この空気入れ、借りていい?」 「あぁいいで。使いよ」 タイヤにシュッ、シュッと空気を送る子どもたちの姿を、ヒカリ自転車商会(駅前本町)のオーナー戸崎孝憲(67)は優しく見守る。...
ヘアメーク「ボルツェ」。モンゴル語で「川の花」を意味する。 海のない国でも川は必ず流れている。そのあぜを彩る花のように、いつか世界中に“幸せの花”を咲かせたい―そんな思いを込めた。 念願の店を亀川浜田町にオープンさせたのは2005...
カラン、コロンと乾いた音色がアーケードに響く。 「もはや戦後ではない」――経済白書にそう記された昭和30年代。泉都の中心部は昼夜、げた履き姿の紳士・淑女が人波をつくった。 湯の街を闊歩かっぽ
細身のパッチに法被姿。 昔かたぎの職人だからこそ、古来伝統の「いでたち」が様になる。 梶原造園(亀川)の取締役会長、梶原康生(61)。 たたき上げの庭師である。 ♨ 中学卒業後、16歳でこの世界に...
55歳である。 山田文俊(亀川四の湯町在住)。競輪のA級3班で活躍する現役のプロ選手だ。 身長183センチ、体重82キロ。今なお、毎日の猛練習を欠かさない。「やはり、負けたくないですからね」 ♨ 約4...
宮崎省三、38歳。 市中心部に店を構える“着物屋さん”の跡取り息子、いわゆる若だんなである。 本業としての肩書は「みやざき呉服店」(駅前本町)の専務だ。 とはいえ、この男、いろんな顔を持っている。...
ふんわりとした不思議な「ぬくもり」がある。 気取らず、飾らず、てらわず、そして、さりげなく。 「のんびり庭を眺めたり、ゆっくり音楽を聴いたりしながら作ってます」 岡嶋尚美、41歳。 天然素材を使用し、ナチュラルな布雑貨を編...
11日付の紙面はこちら