ひと、まち、暮らし、文化――。変わりゆく泉都・別府市のリアルな「素顔」を描写した長期連載。
※大分合同新聞 夕刊社会面 2007(平成19)年10月22日~2009(平成21)年3月14日掲載
兎うさぎ追いしかの山 小鮒こぶな釣りしかの川…… 「そう歌われるように、この国には昔から『釣り文化』ってのがあるんです」 まつき釣具店(新...
兄と弟。切磋せっさ琢磨たくましながら患者と接している。 富士見通りに「かわの整骨院」(野口元町)が開院したのは平成9年7月1日。 以来、県内外...
「別府航路」は格別だ。 実に風光明媚めいびで海も穏やか。半面、往来船が多く、加えて夜間に狭い海峡を通過する。気は抜けない。 神経を使うからこそ、「別府に入って来た時の眺めは何とも言えない...
1日24時間。春夏秋冬を問わず、別府市は「泉都」として呼吸している。...
ステテコを脱いだ。午前6時。外はまだ暗い。 鶴見7組の私営「安部温泉」。地元の丸山金男(81)と井上悦次(78)は冷えた体を湯船に沈めた。「あぁ……こりゃ、いい湯加減じゃ」 入湯料(組合費)は月1,400円。毎朝の1番風呂で1日が...
薄明の午前7時。 亀の井バスのバスガイド、山本砂也香(20)は厚手のコートを着込んで出社した。 昨晩から緊張している。というのも、今日は福岡県内を巡る3社参りの初コース。「猛勉強しました。不安だけど頑張ります」 一行は泉都の老...
湯煙がクリアな午前8時。海地獄がオープンした。 スタッフの熊崎ゆかり(46)は「温泉ゆで卵」の販売係になって4カ月。今朝も1時間前に4かご分、計320個をブルーの湯に漬けた。 98度。おおむね6分40秒でゆで上がる。 「朝仕込...
標高1,300m地点。 鶴見岳の山上駅にあるジャンボ温度計は「氷点下9度」を示していた。 午前9時。近鉄・別府ロープウエイが運行を開始した。 この日の始発便は乗客6人。山上駅の運転室から、ゴンドラ2台を半自動で操作したのは社員...
午前10時。トキハ別府店(北浜2丁目)が開店した。 オープンを告げる伝統の“玄関立ち”を務めたのは案内係の荒金実希(22)。 グレーの帽子にツーピースの制服姿で、正面玄関フロアの中央に立った。 透き通った声を張り上げる。「おは...
親子が遊んでいた。 午前11時10分。子どもより、むしろ“ママたち”の方が楽しそうだ。 別府育ちの尾林千夏(28)は現在、兵庫県宝塚市在住。帰郷するたび、西部子育て支援センターべるね(荘園)に日参する。 ここで神戸市出身の近藤...
カモメが舞っている。潮騒が耳に優しい。 午後零時5分。四国を望む別府海浜砂湯(上人ケ浜町)に、愛知県岡崎市の会社員男性(36)が寝転んだ。「妻と2人で来ました。うわさの砂湯、楽しみです」 作務衣さむえ...
その男が汐見町の料理店に入ったのは、穏やかな平日の午後1 時すぎだった。 ポーカーフェースで「とり天定食、ください」。 もちろん、彼が「とり天Bメン」であることは誰も知らない。ミシュランガイドよろしく、湯の街名物の味、見栄え、衣...
太陽の家(内竈)の第2作業棟。その3階に「オムロン太陽」はある。 コピー機のインキ残量を知らせる近接スイッチ、パワーウインドー(車)の部品……。100種類以上の製品を月約120万個生産している。 従業員は56人。うち36人は体にハ...
別府市観光協会(上野口町)。女性スタッフが1通の封筒を開けた。 出てきたのは「別府八湯温泉道」のスパポートだ。泉都を回って入湯記念スタンプを集めた温泉ファンの、段位認定を求める郵送申請。 パソコンの番付表に名前を登録する。「連休明...
午後4時5分。別府亀の井ホテル(中央町)では、ビジネスマンらしき中年男性がチェックインをしていた。 米国発の経済危機は別府観光にも打撃を与えている。 総店長の小林準治(49)はコンピューター管理の予約状況を見るたび、「パソコンが壊...
交通量が増える午後5時。別府タワー(北浜3丁目)のネオン広告が点灯した。 初代「サッポロビール」から「ナショナル」「朝日ソーラー」を経て、現在の「アサヒビール」は4代目。昨年は約3万5,000人が高さ約100mから坂の街を眺めた。 ...
実にリズミカルである。 週末の午後6時5分。市南部地区公民館(浜脇1丁目)の体育館では「浜脇子ども太鼓」が練習中だった。 結成30年を超えた地域の元気印。幼稚園児から中学生までの14人が各種行事で“粋”を披露している。 「太鼓...
31度。“いい湯加減”の市営温水プール(野口原)に男女19人が飛び込んだ。 午後7時。週1回の初心者水泳教室が始まった。生徒は20―70代。10年以上通い続ける常連もいる。 「ここの水質は抜群。水中で25m先がクリアに見渡せる」と...
美しいコーラスが如月きさらぎの夜を奏でた。 発足から49年の「B混記念合唱団 クールあおやま」。美声を持つ各年代層の51人が所属し、週2回、南荘園の練習場でハーモニーを磨いている。 合唱...
♪〈 春 高楼の 花の宴 めぐる盃さかづき かげさして… 〉 午後9時。市南部振興開発ビル(千代町)から「荒城の月」のミュージックサイレンが鳴り響いた。 地元金融機関が昭和31年5月、...
名曲「星に願いを」のメロディーが流れる。続いて館内アナウンス。 〈 本日のご来店、誠にありがとうございました。またのお越しを従業員一同、心よりお待ちしております 〉 午後10時。ゆめタウン別府(楠町)が閉店した。 食品館長...
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な……」 午後11時5分。北浜1丁目のアイスクリーム店「冷乳果工房ジェノバ」に、20代の女性2人が来店した。深夜、お約束のスイーツだ。 昭和59年創業。店内の工房で製造し、酔客に“お口直し”を提供してい...
車が駆け込んでくる。深夜のガソリンスタンド。ヘッドライトがまぶしい。 九州横断道路に面した西石油別府インター給油所(鶴見)。夜勤の社員上戸かみと彬史よしふみ
「今夜は何にしよっか」 午前1時。八坂レンガ通りの「おにぎり亭 多奈加たなか」(北浜1丁目)で、千鳥足のサラリーマンが思案した。 3年前、おかみの田中久子(64)がのれんを掲げた。塩さば、...
春雨が舞っている。 午前2時10。警備会社「別大警備保障」(北中)の社員、河野省三(34)は流川通りに立っていた。 市の下水道工事に伴う交通整理。「今日はこのまま朝六時まで仕事です」 横の路面はアスファルトが削られ、照明の下、...
現在、午前3時5分。世の人々の多くは毛布の中で寝息をたてているだろう。 深更しんこう。にもかかわらず、ソルパセオ銀座の「手打ちうどん 花玄」(北浜1丁目)は盛況だった。 中年男女3人、妙...
あぁ、ようやく落ち着くことができた。 午前4 時の中村病院(秋葉町)。泌尿器・外科病棟のナースステーションで、看護師の藤尾京(49)と深田はづき(24)は深呼吸した。 「今夜は術後の患者もいるので……忙しい」 巡視、採血、検...
オーブンを開ける。7種類のメロンパン、56個が焼き上がった。いい香りだ。 午前5時20分。石垣西の「おひげのパンやさん」は開店準備に追われていた。 ずっしり重いあんパン、牛筋カレーパン、ラスク……いずれも一瞬で売り切れる。 開...
夜の世界に生きる女たちは、人それぞれに「事情」を持つ。別府市生まれの佐藤真美(42)もその1人だ。 丸6年勤めた県内の大手メーカーを脱サラ。今年5月3日、酔客でにぎわう北浜1丁目のつるみプレザンビル一階に、自称”洋風小料理屋スナック”...
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