1本のボールペンが人生を変えた。元教員が愛知・豊川市に開いた木工旋盤のシェア工房

愛知県豊川市、東名高速・音羽蒲郡インターからほど近い場所に、木の香りに包まれた温かな空間があります。2025年5月にオープンした「工房 +niko(プラスニコ)」は、木工旋盤(もっこうせんばん)を使用したものづくりをする木工房。代表の横井 清 氏は、29年間にわたり高校の教員を勤めたという経歴の持ち主。第二の人生として木に携わる生業を選んだ横井氏が大切にしているのは、そこを訪れる人が「ニコッと笑顔になれる」時間と空間です。シェア工房を立ち上げた経緯や、地域の「憩いの場」としてこの先の目標についてご紹介します。
木工旋盤で自分だけのオリジナルをつくる。こだわりのシェア工房
─まず、工房 +nikoの事業内容について教えてください。
当社は木工旋盤という機械を使って木を削り、器やペン、雑貨などの小物をつくる「木工房」です。大きく分けて①会員制のシェア工房、②初心者の方にも楽しんでいただける体験プログラム、そして③木製品の販売という3つを柱にしています。
いちばんの特徴は、本格的な木工旋盤を4台ほど完備していること。幅広く、かつレベルの高いものづくりを誰でも気軽に楽しむことができます。また工房の空間そのものにもこだわっており、この「木の壁」は、私が学んでいた岐阜県立森林文化アカデミーの仲間たちと一緒につくり上げたものです。窓から見える緑豊かな景色が癒しを与えてくれ、訪れる方にホッとくつろいでもらえる空間でありたいですね。車でも電車でも訪れやすい立地も喜んでいただけています。
─「シェア工房」という形にしたのはなぜでしょう?
私はもともと教員をしていたこともあり、人と接するのがすごく好きなんです。木工を仕事にしようと考えたとき、ただ製品をつくって販売するというよりも、人と関わりながら経営できるスタイルはないかと考えていました。
それに私自身、木工旋盤に出会ったとき、すべてを忘れて目の前のものをつくることに夢中になって。この没頭する時間が日々の疲れをリセットしてくれる「休息の時間」であると強く感じました。この工房も「つくることで心を休められる場所」「ものづくりを通じてニコッと笑顔になれる場所」にしたい。そのお手伝いをしたいという想いを込めて、工房の名前を「工房 +niko(プラスニコ)」と名付けました。


本格的な木工旋盤の機械が並ぶ工房。「木工旋盤でものづくりすると角がとれていくのですよ」と横井氏
29年間の教員生活から一転。人生を変えた「1本のボールペン」
─ところで、木工の世界へ進まれたきっかけは?
これまでの29年間、高校で保健体育の教員をしていました。大変やりがいを感じていましたが、45歳を迎えた頃から「第二の人生」を意識し始めるようになったんですね。そんなとき、妻と一緒に参加した「木軸ボールペンづくり」の体験が大きな転機になりました。目の前で木が削られ、みるみるうちに形が変わっていく。その様子と、自分でつくったものが日常生活で使えるという楽しさにすっかり魅了されてしまいまして。木は色味、木目、硬さ、香りなどそれぞれ個性があり、どれひとつとして同じものはありません。唯一無二であるということに安らぎを覚え、その温もりに大きな価値と魅力を感じました。
「木工旋盤を習ってみたい」と調べたところ、岐阜県岐阜市にある「ツバキラボ」というシェア工房を見つけ、2021年8月にレッスンを受け、会員となって通い始めました。そこで代表の和田賢治さんと出会い、木工旋盤の奥深さや、シェア工房というビジネスの可能性について知りました。

木軸シャープペン。横井氏の人生を変えたボールペンとともに定番アイテム
─教員を辞めることに迷いはありませんでしたか?
そうですね。教員のほうが収入面では安定していますが、それでも「第二の人生で新しいことを」という想いが強かったですね。それに対して、家族が理解し応援してくれたのがとても大きかったですし、特に新たな道を一緒に模索してくれる妻には感謝してもしきれないです。
ツバキラボの和田さんに相談してより本格的に学ぶために教員を退職。「岐阜県立森林文化アカデミー」の森と木のクリエーター科 木工専攻への入学を決めました。アカデミーでは木工品をつくる技術はもとより、地域材を用いた木工品の企画製作、木工や木育講座の企画運営など幅広い内容を教わり、2年間みっちりと学びました。このときの経験と一緒に学んだ仲間がいたからこそ、今の「工房 +niko」があると思っています。ホームページを立ち上げてからは、ウェブを見て体験プログラムに申し込まれるお客様も増え、集客だけでなく信頼感の面でも大きな手応えを感じています。


温もりのあふれる空間にさまざまな木製品が並ぶ。
「心休まる場」としての工房。地域に笑顔を広げていきたい
─オープンからこれまでの間で、特に印象に残っている出会いはありますか?
それこそ、たくさんありますよ。オープンして最初の2日間は150人もの方が来てくれました。教え子や妻の職場の方々が来てくれたり、地域の方たちも足を運んでくれたり。2階ではコントラバスとピアノの演奏も行い大変盛り上がりました。
出会いといえば、やはり和田さんでしょうか。私に木工旋盤の世界を教えてくれた恩人であり、今もグループ工房として大変お世話になっています。
そしてアカデミー時代の仲間とのつながりも宝物です。50歳を過ぎて新しいことを学ぶって大変なんですよ、教わってもなかなか頭に入っていかない(笑)。アカデミーの仲間たちは20代から60代まで年齢もそれまでの職歴もみんなさまざま。ですが、森林環境などの自然の恵みを大切にしていきたいという想いはみな同じ。すごく心強い存在です。
また、大学時代からの友人ともずっとつながっていて、お互いの近況を聞くと励みになります。次回の集まりはこの「工房 +niko」に招く予定。実はこの工房の壁の一部をつくるのも大学時代の友人が奈良県から手伝いに来てくれたんです。
自分自身はこの愛知県豊川市に縁もゆかりもないのですが、この地域の皆さんは業種を問わず声をかけてくれる方が多く、2025年11月には「ニコニコ秋祭り」を開催することができました。その際、キッチンカーをお願いした方が他にも声をかけてくださり盛況でした。また、ありがたいことに、私が普段からよく伺うラーメン店やカレー店とも、お互いにお客様を紹介し合う地域連携もスタートしています。
こうして挙げてみると……、本当にたくさんの方に支えてもらっています。

オープン時に寄せられた心温まるメッセージを窓辺に飾って。
─最後に、今後の展望について教えてください。
まずはひとりでも多くの方に、体験プログラムを通じて「木に触れる心地良さや温かみ」「ものづくりの楽しさ」「自分でつくったものへの愛着」などを伝えたいですね。そのためにも、この工房をより多くの方に知ってもらい、三河地方だけでなく、広く愛知県や静岡県全体からも「本格的なものづくりを楽しむ仲間」を募りたい。
2階の和室の活用についても考え中。3月には私も大好きな名古屋の古着屋さんに出店してもらいました。ここをギャラリーやレンタルスペースとして活用したり、宿泊もできるようにして「木工の宿泊体験」ができるようになったらおもしろいかもしれません。地域の方だけでなく、海外の方々にも喜んでいただけそうです。
人とのつながりを大切にして日々を楽しみながらチャレンジを続けたいです。

体験プログラムのお申し込みやイベント情報などはインスタグラムから!
インスタグラム:https://www.instagram.com/plus_niko/
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