大分合同新聞社とNHK大分放送局の共同企画第3弾。現在から未来へと変わりゆく人々の生活、環境、地域の問題を検証し、活字と映像のメディアミックスで暮らしの未来を考えた。
※大分合同新聞 朝刊1面 2003(平成15)年6月23日~2005(平成17)年11月5日掲載
こんがりと、豆腐が色づいた。焦げた田舎みそが香ばしい。そろそろいいころ合いだ。 竹ぐしを手に取る。田楽を口に運ぶ。木の芽みそから春の香りが広がった。 「竹田の田楽料理は消えかかっていたんですよ。歴史は、作り方はと古文書も調べた。工...
試行錯誤の連続だった。田楽火鉢を復元するまで、3年を費やした。 「失敗ばかりで、何度泣いたことか」。竹田市の陶芸グループ「あすなろ」の代表工藤昭子さん(76)は振り返る。 田楽火鉢の材質を調べ、土鍋用の土に赤土をブレンドした。窯の...
タマネギに包丁を入れた。はじけるような切り口から、乳白色の滴がしたたり落ちてきた。 「新しいと甘みが強く、辛みがまろやかに感じられるんですね」 午前10時、湯布院町川上にある老舗旅館の食事処「湯の岳庵」の厨房(ちゅうぼう)。滴の味...
「今日のポークビーンズのタマネギとジャガイモは足岡千佐枝さんが作りました」 臼杵市中心部から約3kmの下南小学校。給食の時間の校内放送で、料理に使われた野菜の生産者の名前が流れた。「『給食畑』のジャガイモはおいしい」。子どもたちのスプ...
生後3日の子豚は、思った以上に重くて温かい。体長約30cm、心臓の鼓動が手のひらに伝わる。”命の音”に、子どもたちは声を潜めた。 6月6日午後、耶馬渓町下郷小学校の4年生19人が同町鎌城地区の養豚、養鶏農家を訪れた。総合的な学習の時間...
教壇から台所へ。すっかりエプロン姿が板についた。手には使い込んだ包丁。舌と感性で「四季」を味付ける。 「その時、その季節で料理を工夫する。同じもんは2度と出りゃあせんよ」 安心院町恒松の農村民泊施設「もっちゃんち」。夫婦ともに元学...
「一握りの苗がご飯になる、という実感がわかなくて……。それを知りたいんです」 北九州市の会社員森田希さん(29)は田んぼの土の感触を足で確かめた。周囲は横一線に並んだ都市からの住民たち。6月下旬、安心院町グリーンツーリズム研究会が同町...
「食は社会のさまざまな問題を考えていくきっかけとなる」。大分合同新聞社とNHK大分放送局の共同企画「大分を創る」で、県内各地を共同取材したNHK大分放送局の上村晴彦ディレクター(33)はこう振り返った。上村ディレクターは特集番組「大分を創...
▽対談者 島村菜津(ノンフィクション作家) 上村晴彦(NHK大分放送局ディレクター) 上村 食をめぐって何か一つのことが動きだすと、いろいろなことに結び付いていくものですね。竹田市では、半世紀以上も眠っていた田楽料理を復活さ...
中津江村に戻って1年、緑に囲まれた村営住宅の暮らしがすっかり体になじんだ。「日田市まで車で40分。そこで働いていたけど、長男だし、いずれは親の面倒もみらないかんと考えたしね。おやじも左官で、戻ってきてから一緒に仕事をしている。生まれ育った...
「結婚祝い金(20万円)・仲人報奨金(10万円)=廃止。出産祝い金(第1子10万円、第2子20万円)=県の少子化対策の基準額(第1子3万円、第2子10万円)に縮小。住宅建築補助金(100万円)=金額を減らして継続」。日田市郡合併協議会によ...
「日田市郡の六市町村が合併しても、新しい市の中心部に人が集まり、前津江村はますます人が減るんじゃなかろうか。山を守っていくことができるんじゃろうか」 標高700m、前津江村の山林で、綾垣新市さん(47)=同村赤石=が話した。一帯は19...
「島で生まれて、島で生活する。役場職員になって、自分なりの生き方が実現できた」 姫島村役場職員、松原正吾さん(24)は村高齢者生活福祉センター・姫寿苑で、忙しい日々を送る。本来は事務職だが、高齢者の送迎も手伝う。「島を支えてきたお年寄...
午前7時半、田尻末彦さん(82)=佐賀関町関=は町立病院に向かう。かたわらには妻のアサヱさん(78)。自宅から10分、週に3回の人工透析だ。 田尻さんは元日鉱金属佐賀関製錬所社員。重い糖尿病で腎臓と足に障害がある。1年半前から、人工透...
「いまの形の合併がいいのかどうか」 「これまで通りの地域づくりができるかどうか」 今日も、メンバーの論議は市町村合併に行き着いた。九重町の地域づくりグループ「飯田高原デザイン会議」。高橋裕二郎さん(55)=九重森林公園スキー場支配...
8年前になる。臼杵市と野津町が境界を接する山あいに、コンクリートの舗装道路が完成した。長さ1・2km、幅3・5―4m、建設会社に発注すれば、費用は1千万円をくだらない。臼杵市東神野、会社員三田井寿一さん(59)は「どうしてん、ここに道路が...
「市町村合併は行政システムを変え、暮らしを変えることにほかならない。住民は傍観者であってはならない」。大分合同新聞社とNHK大分放送局の共同企画「大分を創る」で、特集番組「市町村合併~暮らしは誰が守るのか~」の制作を担当した同放送局の山中...
▽対談者 小川全夫(九州大学大学院教授) 山中賢一(NHK大分放送局ディレクター) ――地域づくりの視点から「合併しなくても……」の声もある。行政システムが変われば、今の暮らしのベースにある地域づくりを続けていけるのだろうか...
信号が青に変わった。山崎貴子さん(25)が電動車いすで横断歩道を渡り始めた。大分市のJR大分駅前ロータリーから中央通り商店街へ。最高時速約6km、ひじかけ部分の操作レバーを右手で動かす。歩行者に気を付け、路面に注意しながらゆっくりと……。...
湯沢純一さん(53)=別府市上人仲町=は盲導犬「エバ」のハーネスを握り、散歩に出た。湯沢さんは全盲だ。 自宅から人や車が行き交う道路へ。下水道の水音が聞こえる所で、立ち止まった。「ここは交差点。下水の音が目印です」。車の音がないのを確...
自動ドアが開いた。大分市竹町通り商店街の薬局に、車いすと電動カート(スクーター型電動車いす)が入ってきた。誰もが買い物や散歩を楽しめるようにする試み「タウンモビリティー」の実験だ。 ボランティアグループ「みちの会」(大分市)メンバーの...
「手が不自由なお年寄りたちも、上手に食べることができるんですよ」。管理栄養士の鹿上順子さん(55)が「新しい食器を導入して良かった」と話した。2月中旬、武蔵町立特別養護老人ホーム「むさし苑」では、お年寄りたちが変わった形の食器で、昼食の煮...
「おばあちゃん。きょうは天気がいいね」。後藤百代さん(57)が自宅前の後藤豊子さん(74)宅をひょっこり訪れた。隣の後藤利子さん(83)も買い物途中に立ち寄った。2月上旬の暖かい日、豊子さん方の庭で、仲良し3人のおしゃべりに花が咲いた。豊...
「おはようございます」。小学生が元気な声であいさつした。「おはよう」。車いすで出勤途中の会社員堀浩二さん(42)が応えた。別府市亀川の朝は、きょうもさわやかなあいさつから始まった。「毎日、子どもたちがごく普通にあいさつしてくる。ここで暮ら...
「この段差は越えられない」。車いすの須藤正和さん(46)=大分市=が顔をゆがめた。JR大分駅前のバス乗り場で、大分空港行きのバスに乗ろうとした時だ。プラットホーム状の乗り場までの高さは約15cm。スロープはない。 ほかのバスからも運転...
「障害がある人の立場で町やものをつくっていくことが大切ではないか」。大分合同新聞とNHK大分放送局の共同企画「大分を創る」で、特集番組「バリアフリー~誰にとっても暮らしやすい社会は~」の制作を担当した同放送局の熊野律時ディレクターはこう話...
――別府市の亀川地区を取材した。障害者が働く「太陽の家」があり、障害がある人、ない人が共に暮らしていた。 片岡 障害者が町に出て行くことによってバリアフリーは進む。太陽の家の創立から39年間、亀川地区は長い時間をかけて、共に暮らす町を...
「本当にいい先生が来てくれた。丁寧に診察してくれる。家で具合が悪くなった時にはどうしたらいいか、と細かくアドバイスしてくれる」 5月下旬、竹田市の子育てサークル「ひよこクラブ」の会合で、メンバーが口をそろえた。先生は竹田医師会病院小児...
「8年前の冬のことは、今も忘れられない。1日で128人の乳幼児を診た。あまりにも字を書いたからか、最後は手が震えてカルテがうまく書けなかった」 緒方町の公立おがた総合病院の小児科部長、拝郷敦彦さん(51)は「あのころは、広い地域に小児...
田んぼの向こうにカラフルな建物が見える。鉄筋コンクリート2階建て(延べ約1万3千平方m)、ガラスをふんだんに使った壁面。「病院と言えば箱形の建築物ですが、この病院は横に長い構造。病院らしくない病院と言ったらいいでしょうか」 緒方町の公...
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