選挙権年齢が18歳以上に引き下げられる。年間企画「青が咲く」の夕刊編は、懸命に自らの人生を切り開こうとしている大分県内の18、19、20歳を追う。
※大分合同新聞 夕刊社会面 2016(平成28)年5月24日~2017(平成29)年3月25日掲載
俺が「引きこもり」になったのには訳がある。 忘れもしない。あれは中学2年の11月。クラスの席替えをした時のことだ。きっかけは1人の女子だった。 隣の席になった彼女は気が強くて発言力があり、常に自分を前面に押し出すタイプの子だった。...
ゲームサウンドが鳴った。 枕元のスマホを手に取り、目覚まし機能を止める。午前10時、起きる時間だ。 別府市のタケル(18)=仮名=は部屋のカーテンを閉めたまま、机のパソコンを立ち上げた。大好きな太鼓ゲームの動画をしばらく眺める。 ...
世の同級生と一緒だ。 引きこもりの生活を続ける別府市のタケル(18)=仮名=の自宅にも、もうすぐ参院選の「投票」案内はがきが届く。 明るく活発な少年だった。中学2年の秋から不登校になり、頑張って入った私立高校は2カ月足らずで離脱し...
中卒――。別杵地区出身のマミ(18)=仮名=にはその2文字が重くのしかかる。 高校1年の冬、先生に反抗し中退した。今は地元のスナックで働く。いろんな人と話せる仕事は面白いが、楽しいことばかりじゃない。「君はどこの高校出ちょんの?」。客...
カラーコンタクトレンズを着ける。黒いスーツもまとった。夜9時。さあ仕事だ――。 別杵地区在住のマミ(18)=仮名=は近所のスナックで、今夜も酔客と向かい合う。 今年1月、店のスタッフ募集のチラシを目にした。初心者歓迎だった。「テレ...
「息子さんには軽度な知的障害があるようです」 中学3年の夏だった。児童相談所の職員が母親(42)にその旨の検査結果を伝えた。 「僕がショウガイ?」。由布市湯布院町出身の芝雄斗(ゆうと)(19)は事実をうまくのみ込めなかった。「うそ...
作業着に袖を通した。 大分市内の漬物工場。両手に全神経を集中させ、野菜と調味液を入れた袋を専用の機械で密封していく。 軽度の知的障害のある芝雄斗(ゆうと)(19)=由布市湯布院町出身=が習得を目指している作業の1つだ。「力の入れ具...
その日も水郷・日田市は気温30度を超えた。 ぎらつく西日を背に、夏服姿の女子高生たちが下校する。同年代の彼女らと擦れ違いながら、日田市上城内(かみじょうない)町の日隈美里(19)は私服で学びやに急いだ。 日田高校定時制の4年生。 ...
暮れゆく教室に、高校球児の掛け声と練習の打球音が響く。 午後6時55分。日田高校定時制(日田市)の2限目が始まった。4年生8人が机を並べ、「政治経済」の授業で夫婦の同姓・別姓について話し合う。 市内上城内(かみじょうない)町の日隈...
屈託がない。「参院選? 全く興味ねえっス」 別杵地区在住のヨシフミ(18)=仮名=は元暴走族だ。今は更生し、コンクリートの型枠大工として働いている。 先日、「投票への案内が書かれた紙」が自宅に届いた。詳しくは見ていない。 選挙...
特殊な金具を外す。型枠の木板をはがすと、滑らかな灰色の壁面がむき出しになった。 技術と経験が必要なコンクリートの打設は、鉄骨・鉄筋建築の要となる作業だ。「よし、今回もうまくいった」 きれいに固まった表面を見るたび、達成感に満ちあふ...
浪人生の1日は長い。 午前7時5分、大分市本神崎(ほんこうざき)の藤原颯(はやて)(18)は地元のJR幸崎駅から日豊線上りの普通列車に乗り込む。大分駅で降り、雑踏を抜けて予備校に着くのは同8時前。それから14時間、「缶詰め」状態で講師...
午後1時半。教室のテレビモニターにくぎ付けになる。 大分市本(ほん)神(こう)崎(ざき)の藤原颯(はやて)(18)が通う市内の予備校は、昼休みにニュース番組を流している。1日中勉強して過ごす浪人生にとって、社会の動きを知る貴重な時間だ...
また同じ夢を見た。 ティーショットを豪快に放つ。アプローチで寄せ、冷静にパットを沈める。スコアは悪くないが、一向に試合は終わらない。あと何ホールあるんだろう。早く解放されたい……。 別府市照波園(しょうはえん)町の但馬友(たじまゆ...
日本女子プロゴルフ協会(LPGA)の2016年度入会式が開かれたのは、最終プロテスト翌日の7月30日だった。 試合会場となった周南カントリー倶楽部(山口県周南市)のクラブハウスに、難関を突破した21人が顔をそろえる。会長の小林浩美(5...
クラブを持つ。別府市照波園(しょうはえん)町の女子プロゴルファー、但馬友(たじまゆう)(18)のルーティン(一連の動作)はこうだ。 まずは素振りを2回。後方からフェアウエーを眺め、左足から1歩前へ。右手でグリップを握り、目標を見定め、...
「病気じゃないんや」 東京は、今にも泣きだしそうな空だった。 多くの若者が行き交う下北沢(世田谷区)。オープンカフェのテラスで、都立の通信制高校に通う石川澪(18)はオレンジジュースを頼んだ。 「私、レズビアンかもしれない――そ...
あれ? この感覚って……何だろう。 別府市育ちの石川澪(18)=東京在住=は中学1年の時、担任だった20代の女性教諭に恋心を抱いた。「好きというより、大人への憧れだと思っていた」 どこにでもいる女子生徒だった。周りのみんなと同じよ...
毎朝8時に起きる。 別府市出身の石川澪(18)は現在、東京都世田谷区で長兄(27)夫婦と暮らしている。 バイト先のカフェは歩いて1分。そこで午前9時から夕方まで働き、夜は義姉の夕飯作りを手伝う。食後は通信制高校の課題をこなし、それ...
秋風に「黄金色」が揺れる。 10月初旬。豊後大野市三重町の県立農業大学校は、実習米のヒノヒカリが収穫期を迎えた。 「よし、やるか」。杵築市山香町出身の2年生、河野翔太(20)=農学部総合農産科水田普通作コース=がコンバインに乗り込...
外はまだ暗い。 県立農業大学校2年の河野翔太(20)は杵築市山香町久木野尾の実家で、午前6時から母・鉄子(58)と農作業を始めた。 乾燥させた新米から、機械でもみ殻を取り除く。玄米を袋に詰め、出荷するために積み上げていく。 次...
どこからかクリスマスソングが聞こえる。夜の街は寒さとともににぎやかさを増してきた。 大分市都町で働くフリーターのタカシ(23)=大分市在住=は、キャバクラの前で酔客たちの来店を待つ。いわゆる「キャッチ」だ。 今年8月までは県内の大...
セミが必死に鳴いていた。 今年8月、県内の大学4年だったタカシ(23)=大分市在住=は退学届を出し、留年生活を終えた。 書類にサインをもらう時、担当の教員から言われた。「4年間頑張ったのに残念だったね」。あまり感慨は湧かなかった。...
何となく、予感はあった。 近くの薬局で妊娠検査薬を買った。その足で1人暮らしの学生アパートに戻る。判定結果は「陽性」だった。 やっぱり……。 県内の私立大学3年、ミドリ(22)は驚かなかった。 梅雨の空に晴れ間が広がってい...
大学生で子どもを産む。 県内の私立大3年のミドリ(22)にためらいはないが、どこかで周りの目を気にする「私」がいる。 高校時代の友人も福岡の大学在学中、出産した。復学した本人に相談すると「考えが甘過ぎる」「やめた方がいい」。にべも...
ノートパソコンのキーボードをたたく音が部屋に響く。 別府市中心部のオフィスビル4階。起業家らが仕事場を共有するシェアオフィスの一角で、立命館アジア太平洋大学(APU)2年の沢村俊哉(19)=熊本市出身=は関係書類の作成などに追われてい...
毎週火曜の夜、事業展開の戦略会議を開く。手段はインターネットのビデオ通話だ。別府市中心部にある起業拠点のシェアオフィスに仲間はいない。 「資金調達はどうなりそう?」「その案件はアプリが完成してからするべきじゃないかなぁ」「えっと、さっ...
野性的だ。切れ味は鋭利なナイフというよりも、豪快な「なた」や「おの」に近い。 「普通の人は絶対まねできない。あんなやつは見たことがない」――彼の大胆不敵な走りを知るライダーたちは舌を巻く。 中津市三光育ちのバイクレーサー、植垣創平...
中津市三光のバイクレーサー植垣創平(20)は普段、自宅近くで両親が営む自動車整備会社で働いている。 担当は四輪駆動車だ。幼い頃からバイクや車のメンテナンスで工具を握っていたこともあり、今は「毎日が楽しくて仕方ない」。仕事後に友達と遊び...
くぎ付けになった。 2次元の世界。制服姿の女子高生がテレビの中で駆け回る。伏線を張り巡らせた物語はコミカルでシリアス。「早く続きが見たい」。展開が気になった。 当時、中学1年だった。大分市のフリーター工藤友也(23)は友達の家で見...
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