本校には個性的な児童や生徒がたくさんいます。クイズが得意で問題を黒板に書いてみんなを楽しませてくれる生徒。歴史が好きで古代史から現代史まで、まるでその時代を生きてきたかのごとく説明してくれる生徒。ダンスがピカイチでプロをめざして毎日努力を重ねている生徒。気配りができて人のお世話をするのが大好きな生徒。昭和のお笑いが好きでドリフターズのDVDや書籍を常に持ち歩く生徒。手先が器用で1学期の夏祭りプロジェクト(屋台)で精度抜群の手作りゴム銃を作ってくれた生徒。釣りが大好きで夏休みにカンパチを3匹釣り上げた話をうれしそうにしてくれた生徒、実にさまざまです。
■ゆとりあるスケジュールでゆったり
本校は、始業時刻は午前9時半、終業時刻は午後3時半となっています。1日の授業は5コマ(45分)です。起立性調節障害など朝が苦手な生徒でも登校しやくするため、ほかの学校に比べてゆとりのあるスケジュールにしています。また部活動や生徒会活動がありません。そんなゆったりした時間の中で、互いの違いを認め合い、ありのままの自分を出すことができるように配慮しています。
また、教職員と生徒が一緒に雑談したり遊んだりすることが多く、そのことが、生徒一人一人の良さをじっくりと見取ることにつながっていると感じています。
今回のコラムでは「教科の学び・自学」というテーマで、授業の様子について紹介します。私が担当する技術科の授業では、体験的な活動を通して、有用感や達成感を味わわせることを大切にしたいと考えています。
■野菜を育て、食べ、販売する喜び
今年は校舎そばにある畑で生徒と一緒に野菜づくりをしています。ほとんどの生徒は経験がありません。中には、めったに家から出ることなく過ごしていた生徒もいました。そのため、初回の授業では、虫を怖がって畑に入ろうとしない生徒や、10分くらいで体調が悪くなる生徒もいました。
私たちの「学びの多様化農園」の野菜は、無農薬野菜です。そのため害虫のカメムシはペットボトルで自作した捕獲器で駆除します。葉っぱを揺らして、落ちたカメムシが捕獲器の穴に入ると生徒は大喜びです。一方で、失敗して自分の腕にカメムシがくっついてしまった生徒は悲鳴を上げていました。そんな楽しい(?)経験もしながら、太陽のもとで汗だくになって野菜を育てました。
7月にはたくさん収穫することができ、授業の一環の「そうめん流しプロジェクト」の時にトマトやキュウリを流して食べたり、「野遊び」でバスに乗って訪ねた岳切渓谷(宇佐市院内町)では、川で冷やしたスイカを食べたりしました。自分たちで作った野菜を食べるとみんな大喜びです。
また、このようなさまざまなプロジェクトの資金にするために、収穫した野菜を販売しています。野菜を袋詰めし、値段を考え、ラベルを付けて出荷します。その一環で生徒と訪ねた玖珠町役場では、実際に生徒たちが台の上に野菜を並べ販売しました。始めは不安そうでしたが、最後にはいい表情になり「ありがとうございます!」と自信を持って声を出せるようにもなりました。教育長や町長も来てくれて笑顔で買ってくれ応援してくれました。
また、野菜を出荷している道の駅「童話の里くす」では、生徒の保護者や地域の方が「(学びの多様化学校の)子どもたちのために」と買っていく話も聞きました。開校した本校をたくさんの方が応援してくれてることを実感しています。
道の駅から伝えられる売り上げの金額は、生徒が集まる朝の会で発表します。最高金額が出た時には、生徒たちから「おーっ」と歓声が上がりました。収益は、最終的な売上金額から必要経費を差し引いて計算します。実は、この中には野菜作りに関わった人への人件費が含まれていません。野菜の生産で人件費を入れて収益を上げることの難しさを生徒たちは実感しています。
このように農業が抱える課題に始まり、生産管理アプリや自動運転の農業用ロボットなど先端技術を導入した次世代の「スマート農業」についても学習しています。野菜作りを通して基本的な知識を身に付けた上に、流通の仕組みや勤労の大変さや面白さまでも学んでいます。
■自分のペースで自学、ICTが力を発揮
次に、本校が設けている「自学」の時間について紹介します。教室にいる生徒全員に向けた一斉の授業ではなく、自分がやりたい教科を自分のペースで学習することができます。
この中で力を発揮しているのが、ICT端末と学習支援ソフトです。このソフトには、単元ごとに講師による説明動画が用意されています。教科書だけでは理解できなかった生徒も、動画を視聴することで、自力で学習を進めることができるようになりました。
また、「自学」の時間には、教員が教室にいて、学習につまずいている生徒にアドバイスしたり、集中力が続かない生徒に声かけしたりして支援しています。
そうすることで当初は、解き方が分からなくて「教えてほしい」と言い出せずに、一人で悩んで涙を流すことがあった生徒が、今は積極的に質問できるようにもなりました。このように、本校では生徒たちの「自走する学び」を支える体制づくりに積極的に取り組んでいます。
文科省が実施したアンケートによると、不登校のきっかけになった理由の大きな一つに「学業の不振」があります。本校に通う生徒たちも例外ではありません。不安や挫折の中で学びをやめてしまった生徒が、ありのままの自分を表現できる環境の中で元気や生きる力を取り戻し、自ら学びに向かおうとする気持ちが出るようにしたいのです。
楽しく元気に学びながら、将来自分の人生を切り開くために必要な力をしっかり身に付けられる、そんな「理想の学校」を目指し、職場の仲間、生徒たちと共に取り組みを深めていきます。
Profile
いのうえ・たかふみ 1964年玖珠町生まれ。大学卒業後から中学校教員(技術・数学担当)として玖珠郡内の中学校を中心に勤務。教務担当。趣味は、釣り、山登り、水泳、楽器(ギター・ドラム)演奏。
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