『聡乃学習』小林聡美著 「ない」ことを嘆くのはもう終わりだ

 大好きな女優さんである。まだ巷がバブルに浮かれ、女たちがオンナオンナしてロングヘアを振り回していた頃、彼女は「ジョユウ」とか「オンナ」とかではなく「小林聡美」だった。「我が強い」とか「キャラが濃い」とかではない。もちろん、血の通った役柄を演じているのだ。でもなんだろう、彼女が演じる女性は何らかの体温に満ちていて、それは代わりのきかない、他の誰でもない「小林聡美」の体温なのである。

 本書は、彼女がまもなく50代を迎えようとした頃から5年間、書きためられてきたエッセイ集である。50代のひとり暮らしに何が起きるか、実に率直にかかれている。でもそこには「ひとりで生きていくんだもん!」とか「ひとりでも幸せなのアタシ!!」的な力みや悲壮感はない。実に穏やかでのびのびしている。

 本書を読むときは、ぜひ自宅で、テレビもラジオも音楽も消して、ひとりの空間に身を置いてほしい。ページをひらくと、彼女の目に映るものがそのまま入ってくる。彼女は、見たいものがあれば、わりとどこへでも出かけていく。地方の大きなお祭り。ひばりや裕次郎の記念館。山歩き。家に帰れば、これまでの人生で撮りためた写真たちの処遇に難儀し、育ちすぎたベランダの植木たちに困惑し、家具に足をしたたかに打ちつけて、満身創痍で初めての一人焼肉を食らう。そのどれもが素直に、生き生きとつづられていく。とかく、自分が思っている自分と、実際の自分との間に(主に体力的に)ギャップが広がる年頃である。それを、彼女は嘆くのではなく見つめる。そう、見つめるのだ。

 人生を豊かにするものは、お金の有無でも、相方の有無でもない。いや、それらも大切なのだろうけれど、この本を踏まえると、人生、そういうことじゃないのよな、と思う。じゃあ、何なのか。何が、ひとの人生を豊かにするのか。勇気。それから好奇心なんである。遠くにあるもの、身の回りのこと、そして、自分の内側で起きていること。飛びあがるほどうれしいこと、縮みあがるほど恐ろしいこと、身を絞られるほど悲しいこと。そのすべてが何かの種だし、栄養だ。私たちはもう、持っていないものを数えあげて嘆かなくていい。本を閉じたとき、とても身軽で、晴れやかな気持ちになったのである。

(幻冬舎 1400円+税)=小川志津子

2019年12月13日

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本の世界へようこそ!注目の一冊を、やさしく厳しく批評します。

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