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『ゆゆのつづき』高楼方子著 再会ともつかない再会の風景

 主人公の「由々」は50代の翻訳家だ。目の前の仕事に、粛々と取り組み、粛々と終えては、コーヒーなど入れて窓の外を見やる。そして彼女の意識は遠い昔、「ゆゆ」という少女だった頃のある1日へと飛ぶのだ。

 お気に入りのワンピースさえ着れば、今日はきっと素敵なことがあると、うきうきした気持ちになれた少女時代。夏休みが終わり、級友との久しぶりの再会に胸を躍らせながら、彼女は「黄の花のワンピース」に袖を通す。そこからの大冒険が、少女の心には酷で美しい。

 夏休みの間、その子に会うことだけを夢想し続けてきた親友に、突然拒まれる。落胆の道中、おばあさんが声をかけてくれるが、しかしおばあさんは少し時間が経つと、もうそのことを覚えていなかった。歩いていくと子犬に出会い、思いっきりなつかれ、大きく迷ったあげく、うちに連れて帰ろうとしたとたん、飼い主の女の子が現れる。

 喪失。彼女が立て続けに味わったものはそれである。これから伸びやかに、あらゆるものを手の中におさめていくはずの少女が、ほんの半日で、立て続けにいくつものものに出会い、そして失った。けれど帰宅すると、家庭教師の大学生が彼女に言うのだ。

 悲しいことだらけだった日には、楽しいことだらけだった日にはない良さがある——。

 これが40代の私にはやけに沁みた。SNSを開けば、隅から隅まで、今日一日がどれだけ充実していたかを伝える自撮りにあふれている。「楽しかった」「有意義だった」としか言っちゃいけないみたいな世界。すべての人生、愉快でなきゃいけないみたいな世界。

 50代に戻った「由々」もまた、その言葉を噛みしめる。あのひと言で、自分の冒険は報われた。あの日のように、何かに出会い、何かを手の中に確かめたい。素敵なワンピースを買い求め、袖を通し、街へ出る。あの日歩いた道を、もう一度たどってみる。すると去来するのは、当時の思い出だけではない。大人になってからのそれが、唐突に由々の脳内を横切る。この間出会ったばかりの青年のこと。古い友人のこと。長い付き合いになる夫のこと。いろんな人が現れては消える。生きるって、それである。目的地に向かって一心不乱に歩くことが難しくなる。経験の分だけ、雑音は増える。その雑音こそが、人生の豊かさだ。

 「由々」は、いくつかの再会を果たす。ずばりその人に再会するのというより、彼女の中では「再会」とされるものたち、である。そして、あの頃はわからなかった自分の気持ちの正体に向き合う。人は、喜びも悲しみも諸共に、生きる。

(理論社 1400円+税)=小川志津子

2019年11月15日

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