「頭を使う野球」でプロ13年

引退のヤクルト大引啓次内野手



 言葉の真意を今でもよく考える。「頭を使わなくてもできてしまう野球になってきている」

 昨年3月に現役最後の試合を終えたイチロー氏が会見で語ったものだ。インパクトのある発言だけに、たびたび選手や関係者との話題に上った。

 回答としては、メジャーで流行する極端な守備シフトのことだろうという見方が多い。

 ビッグデータからはじき出される打球方向に守備網を移すのは合理的な戦術だが、バントすればいつでも安打という場面も散見されるわけで、野球の妙味が失われている感は否めない。

 この冬、一人の名手が引退を決断した。ヤクルトを退団して現役続行の道を探った大引啓次内野手に、日本のプロ野球球団からのオファーは届かなかった。

 35歳。体力的なピークは過ぎたかもしれないが、彼の武器である堅守と読みを利かせた打撃は重ねた経験によって熟されてきた。だから野球という競技の奥深さを示すようなプレーの担い手が去るのは寂しく、同時に昨今の球界でベテラン選手に対するニーズが低下していることを残念に思う。

 選手としてのハイライトは2015年、FA移籍したヤクルトでチーム14年ぶりのセ・リーグ優勝に貢献したことだろう。

 この年は開幕から打撃不調で成績こそ見栄えはしないが、けがで離脱するとチームが連敗、合流すれば連勝スタートという現象が現実に起きた。

 参謀役だった三木肇コーチ(現楽天監督)はそれを「戦況を見た微妙なポジショニングだったり、グラウンド上で感じることを投手に声掛けしたり。大引の存在感による影響は確かにある」と言った。

 連敗時に選手だけで開いたミーティングで、発言役に指名したバーネット投手がそのリーダーシップに感激して独演したことは語り草だ。

 「野村克也さんの『生涯一捕手』じゃないけど、自分は生涯一遊撃手でいたい」とまで話していたが、現役晩年は三塁へのコンバートを受け入れた。

 ほとんど経験のないポジションで、守備固めとして起用されることの難しさと人知れず戦っていた。だから、故障者が相次ぎチャンスが巡ってきそうでも、遊撃でノックを受けることはしなかった。

 「やっとつかめてきた三塁の感覚を崩したくない」と役割を強く自覚。ベンチからは巨人・原辰徳監督らの采配を考察して勝つためのヒントを探っていた。

 並外れた身体能力がなくても、プロ13年間をほぼ1軍で生き抜いた自負がそこに垣間見える。

 球界はここ数年で弾道測定器「トラックマン」などのシステムが急速に浸透。投げたボールやバットスイングの性質をはじめとした選手のプレーが細かく数値化され、チーム編成や戦術面にも影響するようになってきた。

 身体的に優れた、若い有望株の確保に各球団が必死になる風潮は日本でも加速している。そこで経験や存在感といった要素が軽んじられるようになってきていないだろうか。

 イチロー氏は「せめて日本の野球は、頭を使う面白い野球であってほしい」と付け加えた。

 ちなみに「大引選手」は、ヒットゾーンが広がる極端な守備シフトには反対だった。「あれをやると簡単に4割打者が生まれてしまう」がその理由だ。

 4番打者がセーフティーバントばかりしたら興ざめかもしれないが、勝負の世界で生き抜くための知恵や工夫にこそ競技スポーツの妙がある。ベテランのプレーにそれを学びたい。

小林 陽彦(こばやし・はるひこ)プロフィル

2009年共同通信入社。大阪運動部でプロ野球オリックス、阪神、サッカーG大阪などを担当。14年から本社運動部でヤクルトやDeNAを取材する。神奈川県出身。

2020年1月8日

スポーツリレーコラム

共同通信記者たちが見たスポーツ界の裏側をお見せします。

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