夢へ走り続ける41歳ボクサー

ミドル級王者の野中悠樹が米GCP社と契約



 何か引かれるものを感じた。41歳のボクサーが異例の海外プロモーターと契約締結の発表記者会見があると聞いた時だ。

 その何かを確かめるためにも大阪市内の井岡弘樹ジムへ取材に行った。

 世界ボクシング機構(WBO)アジア・パシフィック・ミドル級王者の野中悠樹が米ニューヨークを拠点にするプロモーターのGCP社と3年契約を結んだ。

 世界ランカーでもなく、しかも12月で42歳になる日本人選手と契約を結ぶことは極めて異例なことだという。

 GCP社は7月の世界ボクシング協会(WBA)ミドル級タイトルマッチで村田諒太(帝拳)に敗れた前王者のロブ・ブラント(米国)らをプロモートしている。代表のグレグ・コーエン氏との接点は2012年にさかのぼる。

 野中陣営が世界戦の交渉をしている時、当時コーエン氏が手がけていたWBAスーパーウエルター級王者オースティン・トラウト(米国)の挑戦者候補となった。

 だが、トラウトが4度目の防衛戦でミゲル・コット(プエルトリコ)に快勝したことで評価を一気に上げ、野中との対戦よりもWBAと世界ボクシング評議会(WBC)の同級統一戦への機運が高まり、野中の世界戦は霧消した。

 月日は流れ、コーエン氏が今年7月に村田―ブラントの一戦で来日。7年前に野中と世界戦の契約をできなかったことを気にかけていたというコーエン氏から野中陣営へ声がかかり、会談の機会を得た。

 その後、9月に野中が王座を初防衛するとコーエン氏から再び連絡があり、プロモーション契約への話が一気に進んだ。

 兵庫県尼崎市出身の野中は19歳でボクシングを始め、1999年11月にプロデビュー。スーパーウエルター級日本王座、東洋太平洋同級王座に就いた。

 日本ボクシングコミッション(JBC)の規定では、37歳でプロライセンスが失効するが、チャンピオン経験者ら一部の選手は医師の診断などの条件をクリアすれば更新できる。

 ことし2月には東洋太平洋とWBOのミドル級王座を奪取。41歳でのJBC公認のタイトル獲得は国内男子では史上最年長の記録も打ち立てた。

 自営の清掃業で生活費を稼ぎながら、アウトボクシングの生命線となる脚力を強化するために1カ月で500キロを走り込む時もあり、「ピークの状態は今でも変わらない」と自負する。

 打たれても芯を外すディフェンスによって蓄積ダメージの少なさが長く現役を続けられる要因の一つだろう。

 だが、デビュー前から20年以上タッグを組む桂伸二トレーナーは「一番の良さは世界王者になりたい気持ちがぶれない。アキレス腱断裂やジム移籍、離婚もあっていろいろな壁にぶつかっても気持ちはぶれなかった」と言う。

 心に引っかかったものはこれかもしれない。苦難を乗り越えながらひた向きに努力を続けている人間の姿勢は年齢、競技に関係なく輝いて見える。その輝きを見たかったのかもしれない。

 7年前の一件を心に留め、今回の異例な契約を決めた「コーエン氏の男気」(桂トレーナー)もどこか人間味を感じてすがすがしい気持ちになる。

 来年1月に米国で試合をする可能性があり、それに勝てばいよいよ念願の世界戦への扉も開くかもしれない。

 野中の輝きはさらに増すことができるだろうか。アマチュア未経験で華々しい戦歴はなくても、地道に歩を進めてきた男の物語は、新たな章に突入した。

佐藤 暢一(さとう・まさかず)プロフィル

2009年共同通信入社。12~14年にプロ野球楽天を担当し、球団初の日本一を取材。19年から大阪支社運動部でさまざまな競技をカバー。上智大時代はフライングディスク競技、アルティメットをプレー。横浜市出身。

2019年11月13日

スポーツリレーコラム

共同通信記者たちが見たスポーツ界の裏側をお見せします。

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