一発勝負で五輪枠つかんだカヤックフォア

受難のカヌー・スプリントが思い結実



 沈滞ムードが続いていたカヌーのスプリント界が、前に進み出す瞬間に立ち会った。

 8月末にハンガリーのセゲドで開催されたカヌー・スプリント世界選手権で、松下桃太郎、藤嶋大規(ともに自衛隊)、水本圭治(チョープロ)、宮田悠佑(和歌山県教育センター学びの丘)の国内トップ選手で編成する男子カヤックフォア500メートルの日本が、東京五輪の出場枠を獲得した。

 「世界で勝負できる」との期待を背負ったフォアの五輪出場枠取りは、世界選手権での一発勝負。初めてのスプリントレース取材でいきなり正念場を体験した。

 ここ数年、スプリント界は受難のときを迎えていた。

 同じカヌー競技でも急流のコースに配置された旗門を通過して速さを競うスラローム種目は、男子カナディアンシングルの羽根田卓也(ミキハウス)が、2016年のリオデジャネイロ五輪で日本カヌー界初のメダルとなる銅メダル獲得の快挙を成し遂げた。

 一方、静水の直線コースで着順を争うスプリント種目は、同じ五輪に選手を送り込むことすらできなかった。

 「メダルを取ってくれてうれしい半面、自分らは誰も挑戦できず悔しい思いをした」。藤嶋はそう当時を振り返る。

 追い打ちを掛けるように、昨年は国内トップ選手がライバル選手の飲料に禁止薬物を混入させる前代未聞の事件が発覚し、イメージに傷も付いた。

 日本連盟の塩沢寛治強化部長が「汚名をそそぐには活躍しかない」とセゲドの宿舎ではき出した言葉に関係者の必死の覚悟が凝縮されていた。

 事前取材を進める中で、関係者がよく口にするキーフレーズがある。「日本の持ち味は後半の伸び」だ。

 予選ではその言葉通りのレース展開で、同じ組の強豪国に迫った。

 ただ、アジアで唯一の決勝進出を果たせば出場枠が獲得できるチャンスだった準決勝では、力みなどから持ち味である後半の伸びを発揮できず、10~18位の順位決定戦に回った。

 大一番となった順位決定戦は、アジア最上位になることが東京五輪への絶対条件。悪い流れを断ち切ろうと、私なりの験かつぎで準決勝とズボンを替えて会場入りした。

 レース前、五輪経験者の成田昌憲日本カヌー連盟会長が「あいつらが枠を取れなかったらと思うと、気が気じゃない。何も手に付かないよ」と吐露するほどの緊張感を肌で感じた。

 私も手汗と手の震えが止まらず、携帯電話のタッチパネルがまともに反応してくれなかったほどだ。

 日本は序盤こそパワーで勝る外国勢に遅れたものの、ゴールに向かって後半はぐんぐんと差を縮めてくる。

 思わず「来い! 来い! 来い!」と声を上げてしまった。人生で初めて五輪出場枠獲得の瞬間を目撃し、強い日差しに汗をかいているのに鳥肌が立つという不思議な現象に襲われた。

 日本チームが喜び、たたえ合う中、成田会長の目には涙が浮かんでいた。

 努力を積み重ねた選手とフォアの集中強化策が結実した瞬間でもあった。

 カヌー競技が盛んな欧州だけあって、世界選手権は各国の観客が国旗を振り、太鼓をたたいて大いに盛り上がった。

 ただ、選手や日本連盟関係者からは「マイナー」と自虐的な言葉を聞くことも少なくない。だからこそ「東京五輪は自分たちが活躍して注目されるように頑張りたい」(藤嶋)、「競技をアピールするすごいいい機会」(水本)と捉える。

 9月には男子カヤックで高校2年の青木瑞樹(福島・安達高)がナショナルチーム入りした。

 スプリント界は五輪出場枠の懸かる来年3月のアジア予選に向け、若手の台頭と話題性という面で、さらに勢い付くと勝手に予想している。

桑原 雅俊(くわはら・まさとし)プロフィル

2010年に共同通信入社。大阪支社社会部、大津支局、札幌支社編集部、横浜支局で行政、警察取材などを経験した。19年5月から本社運動部に異動し、五輪ではカヌーのスプリントとスラローム、スポーツクライミングを担当。東京都出身。

2019年10月9日

スポーツリレーコラム

共同通信記者たちが見たスポーツ界の裏側をお見せします。

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