「サッカーコラム」再認識したJ1鹿島のすごさ

 フットボールとは単純だ。22人がボールを奪い合い、最後はドイツ人が勝つ―。

 サッカーに詳しくない方でも耳にしたことがあるであろう名言だ。この言葉を発したのは、1986年のワールドカップ(W杯)メキシコ大会で得点王を輝いたゲリー・リネカー。Jリーグ初年度に名古屋に所属したイングランド代表のストライカーだ、これをJリーグに当てはまると、「最後は鹿島が勝つ」ということになるのだろうか。

 まだ暑さが残る日も多いが、Jリーグの2019年シーズンは確実に終盤に向かっている。9月14日に行われたJ1第26節は、今季の優勝争いを左右する重要な試合があった。首位のFC東京と2位鹿島が直接対決したのだ。残り9試合の時点なので、まだ気が早いのかもしれない。それでも、結果によっては今後の試合に抱く興味がだいぶ変わってくる。

 4月19日の第8節から5カ月間に渡って首位を保ち続けているFC東京。初優勝に向け、ここまで安定感のある戦いぶりを見せてきたチームだが、開幕前から大きな不安要素があった。ラグビーW杯のために8月17日の第23節を最後にアウェーでの試合が8試合続くのだ。本拠・味の素スタジアムに戻るのは秋を一気に飛ばし、初冬に入った11月23日の第32節だ。このような条件で戦ったチームは、Jリーグでも初だ。だから予想がつかない。

 ただひとつ言えるのは、首位に立っているチームが優位であることは間違いないということだ。今シーズン、FC東京が勝ち点で2位を最大に離したのは7ポイント。第25節までに18節で首位を守っているが、いわゆる2ゲーム差となる6ポイント以上離したのは5回だけだ。2位に大差をつけた独走ではないという内容を踏まえると、逆にチームの安定感が際立ってくる。

 不気味だったのは、そのFC東京を追うのが鹿島になったことだ。第22節から2位に位置し続ける20冠チームは、どれだけメンバーの顔触れが変わろうともタイトルの取り方がチーム全体に染みこんでいる。鹿島とすればホームでの直接対決で勝ち点1差まで縮められる好機を逃すはずがなかった。加えて、鹿島は今季、ホームでめっぽう強い。敗れたのはわずか1回なのだ。

 「決勝戦のつもりで臨んだ」

 ボランチ三竿健斗の言葉が示すように、一戦に懸ける集中力ではわずかながら鹿島が上回っていたような気がする。もちろん、FC東京が集中を欠いたわけではない。それでも両者の明暗が分かれたのは、タイトルを取り続けているチームとそうでないチームの間には受け継がれる歴史に違いがあるためなのかもしれない。

 開始2分、鹿島はセットプレーという理想的な手段で先制点を奪った。レオシルバの右CKをCBのブエノが体を折りながらヘディング。ボールはゴール左隅に吸い込まれた。

 内容を見ても激しく戦い、張り詰めた空気が感じられた試合だった。その緊張の中で少し若さを露呈してしまったのがFC東京に今季から加入した22歳のCB渡辺剛だった。CKの際にブエノをマンマークしていた渡辺は、相手を抑えることを考えるあまり、レオシルバがボールを蹴る瞬間に完全にボールサイドに背を向けていた。右CKからアウトスイングで蹴られたボールは、ゴールから遠ざかる軌道を描く。渡辺はゴール正面にボールが届く瞬間にボールを確認しようとしたが、それでは遅い。ボールとマークする相手を同一視野で捉えるのは守備の鉄則。それを怠ったことで、ブエノにフリーでたたき込まれてしまった。

 FC東京にもチャンスはあった。後半6分に東慶悟が放ったシュートはGK権純泰(クォン・スンテ)のポジショニングの良さに防がれた。もったいなかったのは、後半15分。右サイドから永井謙佑が“らしくない”技巧を見せて逆サイドに見事なクロスを送ったものの、フリーだった室屋成のシュートは右上に外れてしまったのだ。

 確かに、難しいシュートだった。室屋はスピードに乗って飛び込んでいたからだ。それでもゴールの枠内には飛ばしてほしかった。何しろ、彼は日本代表なのだ。室屋のプレーを見ていると、クロスやシュートにかなり雑なところがある。もし、鹿島に所属していたら怒られるだろう。仕上げの集中力で劣るのだ。

 後半33分、鹿島はセルジーニョが左足で見事な「キャノン砲」を決めて、試合を締めくくった。52ポイントのFC東京に、勝ち点差1に詰め寄る2―0の完勝だった。

 試合後、FC東京・長谷川健太監督はこう述べた。「鹿島らしい試合をされて負けてしまった」と。この試合に限らないのだが、1点を守る集中力、1点を奪う集中力。それが他のチームより高いのが、鹿島らしさなのだろう。

 鹿島というクラブに宿る伝統の力。昨年のW杯ロシア大会後に植田直通と昌子源の2CBが抜け、今年も新しく10番を背負った安部裕葵に安西幸輝、鈴木優磨が海外に移籍した。さかのぼれば、柴崎岳や大迫勇也といった現日本代表の中心選手も。他のクラブでこれだけ日本代表クラスの主力選手が抜けたなら、チームは崩壊するに違いない。ところが、鹿島は違う。当たり前のように自チームのサッカーをやり続けられる。改めてすごいと思う。同時に、これで優勝争いも盛り上がった。喜ばしいことだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

2019年9月19日

サッカーコラム

サッカージャーナリスト・岩崎龍一氏による詳細な分析です。

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