法制審議会刑事法部会には刑法学者や裁判官、検察官、弁護士らに加え、被害者遺族も委員として参加した=2025年12月、東京・霞が関
数値基準の導入で認定条件が明確になるのは間違いない。ただ、本当に悪質な事故を漏らさず処罰できるのか。「過失」として裁かれるべきドライバーが不当に危険運転に問われる事態は起きないのか、といった懸念は残る。「数値」の妥当性を巡り、再び議論が起こる可能性もある。
2025年3~12月に議論を重ねた法制審議会刑事法部会は、A案とB案の二つを示して検討を進めた。
改正法で採用した「一般道で50キロ超過」と「呼気1リットル当たり0・50ミリグラム以上のアルコール濃度」はB案だ。
A案は加害者に対してより厳しい数値で、「一般道で40キロ超過」「呼気1リットル中0・25ミリグラム以上のアルコール濃度」だった。
被害者遺族の委員はA案を求めたものの、法制審は3人の刑法学者が支持したB案を選んだ。
法制審の結論に対し、国東市武蔵町の佐藤悦子さん(74)が共同代表を務める「飲酒・ひき逃げ事犯に厳罰を求める遺族・関係者全国連絡協議会」は「数値が加害者に甘すぎる」と主張。基準を引き下げるよう、法相に意見書を出した。
高速度事故の被害者遺族からも、30キロ規制の通学路を70キロで走行することは十分に危険な運転に当たるとの声が上がった。
国は、危険運転致死傷罪の重い法定刑を踏まえ、反論の余地なく適用する数値基準は「より高度の危険性」に限定するべきだと判断した。
■「ながら運転」は対象外に
このほか、被害者遺族らの求めた改正を見送った項目もある。
一つは、運転中にスマートフォンを操作しながら車を運転する「ながら運転」。道交法で禁止されているが、危険運転致死傷罪の対象には含まれていない。
25年に全国で発生した「ながら運転」の死亡・重傷事故は148件。反則金の増額で大幅に減った20年(67件)と比べて2倍以上になった。スマホが日常生活に浸透し、運転中にアプリを使ったり、動画を見たりするドライバーが増えている。
法制審の前段階で意見を交わした法務省の有識者検討会(24年2~11月)は、危険性や悪質性を認めたものの、法改正には慎重な結論に至った。
赤信号無視による死傷事故は、現行法で「赤信号を殊更に無視」した場合に適用されると規定されているが、「殊更に」をより明確な文言にするべきだという声もある。