法制審議会の佐伯仁志会長(右)から答申を受け取った平口洋法相=12日、東京・霞が関
法相の諮問機関「法制審議会」(佐伯仁志会長=中央大大学院教授)は12日の総会で危険運転致死傷罪の改正要綱を議決し、法相に答申した。大分市の時速194キロ死亡事故などで問題となった適用要件が見直される。規制速度の50キロ超過や呼気1リットル中0・50ミリグラム以上のアルコール濃度があった場合に一律に適用する「数値基準」を新たに設ける。法務省は18日召集予定の特別国会に自動車運転処罰法の改正案を提出する方針。
数値基準では、例えば、50キロ規制の国道や県道を100キロ以上で運転したり、30キロ規制の生活道路を80キロ以上で走行したりして死傷事故を起こせば、危険運転罪で処罰できる。高速道は高めに設定し80キロ規制なら140キロ以上で適用する。
基準に満たなくても「準じる速度」であれば、交通量などによっては適用可能とした。
アルコールの数値基準については、飲酒死傷事故の被害者団体から「基準が甘い。より厳しい0・30ミリグラム以上で線引きをするべきだ」との要望書が法相に出ている。
現行法は適用対象を「進行を制御することが困難な高速度」「アルコールの影響で正常な運転が困難」と規定している。2001年の立法時、事故現場の道路形状や車の走行状況などで成否を判断するべきだとの考えから、数値を明記しなかった。その結果、194キロ事故などで分かりにくい運用が続き、見直しの機運が高まった。
現行の規定も残るため、改正後、数値基準を満たさなくても、捜査機関が「制御困難」「正常な運転が困難」を立証すれば危険運転罪で訴追できる。
要綱ではこの他、ドリフトやウイリー走行も新たに同罪に加えた。
大臣室で佐伯会長から要綱を受け取った平口洋法相は「答申を基に法を立案する。できるだけ早く、国会に提出できるように準備を急ぎたい」と述べた。
<解説>危険運転致死傷罪の処罰範囲が見直され、大幅なスピード超過による交通死傷事故で厳罰化が進む見通しとなった。
新設する「数値基準」は、一定の速度超過で走行し続ければ、およそ周りの歩行者や車に対応できず、事故の回避が難しくなる「対処困難性」という考え方に基づく。
これは何が危険運転かについて、車の走行が物理的に難しくなっていることを求める現行の「制御困難性」とは別の捉え方になる。
対処困難性を取り入れた背景には、「制御」を要件にした結果、スリップやスピン、カーブを曲がりきれない―といった走行の逸脱がないと認定されにくい司法判断がある。
大分市の時速194キロ死亡事故でも「自車線で直進進行を続けていた」として、二審福岡高裁は危険運転罪の成立を認めなかった。一審と二審で判断が割れ、検察側が最高裁に上告。事故から5年が過ぎた今も法解釈を巡る裁判は終わっていない。
数値基準が導入されれば、猛スピードの車が起こした事故で曖昧な判断は少なくなるだろう。同時に、速度鑑定などで事故時の速さを正確に把握する必要性は一層高まると見込まれる。
<メモ>
時速194キロ死亡事故は2021年2月9日午後11時ごろ、大分市大在の一般道(法定速度60キロ)で発生した。当時19歳だった男(24)は、乗用車を時速194キロで走らせ、交差点を右折してきた乗用車に激突。運転していた同市坂ノ市南、会社員小柳憲さん=当時(50)=を出血性ショックで死亡させた。24年11月の一審大分地裁裁判員裁判は危険運転致死罪で男に懲役8年の判決を下した。二審の福岡高裁は今年1月22日、一審判決を破棄。過失運転致死罪に変更し、懲役4年6月に減刑した。検察側が最高裁に上告している。