発生から5年がたった事故現場で手を合わせる遺族の長文恵さん=9日深夜、大分市大在
2021年2月に大分市大在の一般道で時速194キロの車が引き起こした死亡事故は9日深夜、発生から5年となった。加害ドライバーの男(24)=同市=を危険運転致死罪で処罰するかどうかの刑事裁判は終結せず、最高裁にステージを移すことが決まった。事故で命を失った同市坂ノ市南、会社員小柳憲さん=当時(50)=の遺族は「悪質な運転の抑止につながる司法判断を」と願う。
悲劇が起きた9日午後10時57分。強い寒波で冷えきった空気が肌を刺す中、小柳憲さんの姉、長(おさ)文恵さん(60)は足腰の弱くなった母(86)を連れて、今年も事故現場で手を合わせた。
「憲がこの道さえ通っていなければ…」。生きてほしかったと思うほど、むなしさが胸を締め付ける。
道幅の広さから通称「40メートル道路」と呼ばれ、交通量の少ない夜間はスピードを出すドライバーが目に付く。長さんは「車が凶器になることを忘れないでほしい」と訴える。
危険運転致死罪を認定しなかった控訴審の福岡高裁判決から1週間後の1月29日、長さんは福岡高検にいた。
「ここで終わるわけにはいきません」。インターネット上で集めた約7万人分の署名を高検の鵜野沢亮刑事部長と山本保慶検事に渡し、最高裁に上告するように求めた。
長さんの隣には大分市の代理人弁護士のほか、被害者支援で有名な高橋正人弁護士(69)=第二東京弁護士会=と、元鹿児島地検検事正の内藤秀男弁護士(65)=群馬弁護士会=がいた。2人とも「国民の常識と乖離(かいり)した判決だ」と支援を名乗り出て、遺族の代理人に加わった。
刑事訴訟法は原則、上告の理由を憲法違反と判例違反に限っている。被害者側が要望しても、検察が断念するケースは珍しくない。
関係者によると、この日の面談では判決が抵触している判例について意見が交わされ、高橋、内藤両弁護士は危険運転致死罪の成立に向けて最高裁の最終判断を仰ぐべきだ―と強く進言した。
1時間に及んだ面談。鵜野沢刑事部長は「安心してください」と長さんに声をかけたという。申し立て期限の2月5日、高検は「判例違反」を理由に上告に踏み切った。
21年は大分県内で36人が輪禍で命を失った。小柳さんが犠牲になった事故は、大分地検がいったん危険運転致死罪での起訴を見送った22年夏以降、世間の注目が高まった。
「なぜ危険運転じゃないのか」と訴えた長さんたちとともに、各地の遺族も声を上げた。
つながりができなければ悔し涙を流して終わっていた、と長さんは思う。
「捜査を尽くしてもらえず、苦しい気持ちの被害者がたくさんいるはず。多くの人に支えられた私たちは、恵まれた遺族だった」
事故がきっかけの一つとなり、政府は今夏にも自動車運転処罰法を改正し、速度を認定要件にした「数値基準」を導入する方針。例えば現場の道路なら、110キロ以上で死傷事故を起こせば、一律に危険運転致死傷罪で罰せられる。
長さんは法改正を歓迎しつつ、「現行法でも危険運転罪を適用するべきだ。全国の被害者遺族のためにも、引き続き活動していく」と語った。
<メモ>
事故は大分市大在の一般道(法定速度60キロ)で発生した。当時19歳だった男は、乗用車を時速194キロで走らせ、交差点を右折してきた乗用車に激突。運転していた小柳憲さんは翌日未明、搬送先の病院で亡くなった。一審大分地裁の裁判員裁判は2024年11月、危険運転致死罪で男に懲役8年の判決を言い渡した。今年1月22日の福岡高裁控訴審判決は一審を破棄。過失運転致死罪に変更し、懲役4年6月に減刑した。