落とし物を捜す際の問い合わせ画面。特徴や写真を送信すると、AIが類似品を選別する
人工知能(AI)を使って落とし物を捜し、返却場所を案内するサービスを交通機関などが導入している。落とした場所や落とし物の特徴が正確に分からなくても、AIが可能性の高い物を選別。JR九州大分支社では返却率が10%から25%に上がった。
落とし物を管理する職員の負担も軽減。京王電鉄(東京)や札幌市交通局、羽田空港のほか、大分県警や警視庁も一部利用するなど、約30の組織が約2300カ所の駅などで活用する。
サービスを提供しているのはITベンチャーのファインド(東京)。落とし物が届けられると、交通機関や公共施設の職員がタブレットで撮影。ファインドのAIが色や形などの特徴を文字にし、写真とともにデータベースに保存する。
落とし物の問い合わせはLINE(ライン)などで受け付ける。落とし主は紛失場所や落とし物の特徴、写真を入力。写真がないときはイラストから落とし物に近いものを選択して知らせる。英語や中国語、韓国語でも対応する。
ファインドの従業員は落とし主の入力情報を基に、AIでデータベースを検索する。落とし主から写真の提供がなかったり、入力された特徴があいまいだったりしても、AIは可能性が高い順に複数の候補を示す。本人の物だと確認できれば駅や施設の窓口を案内する。
JR九州大分支社は2023年9月に導入した。1日平均1万7千人が利用する大分駅では毎日約60件の落とし物がある。傘が最も多く、財布や携帯電話、大型連休中は土産品も増える。総務企画課の中村和哉さん(41)は「導入後は捜す手間が省け、落とし主も見つけやすくなったと思う」と話す。
大分県警と警視庁も一部で利用する。県警会計課は「照合のために保管倉庫に行かなくても見つけられる。返却までの対応が速くなった」と評価する。
JR博多駅の駅ビルや地下ショッピングセンターなどの複数施設はサービスを導入し、駅周辺の落とし物を施設ごとに問い合わせをしなくても済むようにした。
ファインドは23年6月にサービスの提供を開始。25年3月末時点で累計約150万件の落とし物を扱い、このうち約48万件を返却できた。和田龍最高執行責任者は「落とし主はこれまで、いろいろな場所に電話しなければならなかった。このサービスを利用する機関が増えれば、巨大な落とし物のデータベースで照合できるようになり、簡単に見つかるようになるだろう」と話している。