「ガマ千びき イワナ千びき」を手にする、ザ・キャビンカンパニーの阿部健太朗さん(右)と吉岡紗希さん
由布市を拠点とする美術家ユニット、絵本作家のザ・キャビンカンパニーと、児童文学作家の最上一平さんが、絵本「ガマ千びき イワナ千びき」(文渓堂・1760円)を出版した。いずれも昨年の第73回小学館児童出版文化賞を受賞しており、最強タッグがわくわくするような作品を仕上げた。
キャビンの阿部健太朗さん、吉岡紗希さんが作家の内田麟太郞さんと手がけた児童書「むかしむかし」(文渓堂)を見た最上さんがオファーを出した。
滝を舞台にガマ(大型のカエル)がイワナと出会い、ひたむきに成長する物語。近年、各賞を席巻するキャビンは、これまでファンタジー世界を中心に描いてきた。今回の作品はリアルな生き物を写実的に描くという、新しい境地を開くものとなった。
最上さんの文章から「ガマとイワナが出会う場所」について熟考し、富山県などを流れる黒部川源流をモデルとして描き始めたという。
さらにこれまでは取り組むことの少なかった現実の生き物を描くことにも苦心。イワナについては大の釣り好きであるという最上さんともやりとりを重ねてブラッシュアップし、ガマは阿部さんが、祖母山で捕獲したカエルを飼い、モデルとして創作に励んだ。
生きる力にあふれた文章を表現するため、自然や生き物ともに迫力たっぷりで生々しい描写がされているが、もちろん2人の独自性も生かされている。「生態や物語の基本をそこなってはいけないが、自分たちの世代だから描ける今の子どもたちに向けたような絵にすることで、新しい絵本になると思った」と吉岡さん。「福田平八郎や葛飾北斎の影響を受けている」という多彩な「水の表現」にも注目。
最上、内田両氏のような児童文学を代表する作家から求められることについて、阿部さんは「すごく丁寧に世界と自然を見ておられる。そういった方からのオファーは、僕らの中に何か共通するものを感じ取っていてくれるのかなと思え、すごく光栄」と喜ぶ。
現在も10作ほどの構想・制作が進行中。多忙の日々を送る2人は「まずは(自作の)絵本が書きたい。あとは目の前のことを一生懸命にやり、いいものにすれば次につながっていくと思う」と気負いなく取り組む。
■最上さん「力強さに衝撃覚えオファー」
長年、愛情豊かで深い作品の数々で児童文学界をリードしてきた最上一平さんに、新作や創作への思いなどを聞いた。
―キャビンにオファーを出した決め手は。
「児童書『むかしむかし』を見て、個性的で歌舞伎の見えを切ったような力強さにインパクトを覚えた」
―作品の挿絵については。
「ガマはリアルで、人によっては気持ち悪いといわれるんじゃないかというほど、生きているように描いてくれた。他も言うことはなかったが、特に水の表現。場面によっていろいろ描き方を変え、素晴らしいものだった」
―第一線で活躍し続ける創作の源は。
「山形で生まれ、そこの人々の営みやつながり方が、私にとっては美しい風景。それを創作の柱としてきた。これからも感動したことや自分の思う美しい人たちの物語を書いていきたい」
―今作品がどう読まれてほしいか。
「元々は東日本大震災時に宮城県の気仙沼にボランティアで行った際、被災者に向けいつか何か自分なりに書いてみたいと思ったのがきっかけの作品。ガマがイワナに憧れて自分なりに力を出し、明日につなげていく姿から何かを感じていただければ」
もがみ・いっぺい 1957年山形県生まれ。児童文学作家として読み物、絵本ともに著書多数。「ぬくい山のきつね」で日本児童文学者協会賞、絵本「たぬきの花よめ道中」で日本絵本賞受賞など。2024年の小学館児童出版文化賞受賞作は「じゅげむの夏」。