遊泳禁止を呼びかける看板=9日、大分市神崎の田ノ浦ビーチ
日向灘を震源に8日に発生した地震で南海トラフ臨時情報(巨大地震注意)が発表され、県内にさまざまな影響が出ている。一部の海水浴場は遊泳の禁止や制限の措置を講じた。量販店には防災グッズを求める人が詰めかけ、ホテルは観光客のキャンセルが出始めている。自主避難者の受け入れを始めた自治体もある。
大分市の田ノ浦ビーチは14日まで遊泳とマリンスポーツを禁止する。市の担当者は「1週間程度は大きな地震に注意する必要があるため」と説明。杵築市の奈多海岸海水浴場は12日まで遊泳終了時間を1時間繰り上げて午後4時までとし、泳げる区域も制限する。
現実味を増す巨大地震発生に備えようと、防災グッズの需要が増している。大分市のホームセンター「ハンズマンわさだ店」では8日夜から防災関連商品が売れ出し、9日朝に特設コーナーも設けた。家具の固定用品や非常食などが幅広く売れ、品薄感も出ている。
馬原隆文店長(46)は「インパクトの大きさは熊本・大分地震以来」と驚く。来店した大分市寒田の主婦(65)は「いつか巨大地震が来ると聞いていたけど、何をどこまで準備していいのか分からない」と不安げに話した。
観光業界にも少しずつ影響が出ている。由布市内のホテルでは地震発生後、お盆中に宿泊予定だった客から5、6件のキャンセルが出た。予約状況はおおむね例年通りというものの、「早くから予約してくれていた客からも取り消しがあった。不安は大きいようだ」と明かす。
別府市内のホテルの担当者は「キャンセルは出ているが現状は痛手ではない。この状況が長引くと心配」と述べた。
臨時情報の対象地域は日田市、玖珠町を除く16市町村。巨大地震が起きれば大きな被害が予想される佐伯市は災害対策本部会議で、市の施設に自主避難者を受け入れることを決めた。大分、別府など5市も災害警戒本部を設置し、情報収集などに当たっている。
佐藤樹一郎知事は「冷静な行動を心がけて日常生活を継続するようお願いする。旅行者や帰省者も多いと思う。どこに避難すればいいかを一人一人が確認し、安全に過ごしてほしい」とメッセージを出した。
■10メートル超の津波予想地域の住民「どう行動すれば」
南海トラフでマグニチュード9規模の巨大地震が発生した場合、佐伯市の蒲江、米水津では高さ10メートルを超える津波が押し寄せると考えられている。「巨大地震注意」の臨時情報が初めて発表され、地元住民から戸惑いの声も聞かれた。
県内最大の13・5メートルの津波が予想される蒲江の丸市尾地区。約160世帯290人が暮らし、65歳以上の高齢化率は5割を超える。
高台は6カ所あり、30分以内で避難できるよう訓練をしているものの、区長の児玉和康さん(76)は不安を隠せない。「足腰の不自由な高齢者や透析患者には介助者を付けているが、日中は地区外に仕事で出ていて不在が多い。その時は地区内の高齢者だけで対応するしかない」
近くの森崎地区で区長を務める田村儀一さん(68)は、臨時情報の分かりにくさを指摘する。「1週間程度注意するように言われても、どう行動すればいいか困惑する」と吐露した。
米水津の宮野浦地区は眼前にリアス海岸が広がる。地区では高台にある2次避難所内の備蓄棚を増設し、今月3日には全約120世帯に常備薬や着替えなどを入れる保管ボックスを配布したばかりだった。
今回の地震発生後、2次避難所は地区住民や水産加工会社で働く外国人技能実習生ら約30人が集まり、飲料水が配られたという。区長の高橋愛喜さん(69)は「災害時には日頃の備えが欠かせない。臨時情報が出てもやることは変わらない」と述べた。
■日田市の78世帯で給水停止
地震の影響で水源の井戸水に濁りが生じたとして、日田市は同市天瀬町五馬本村地区の78世帯への給水を停止した。地区内のいつま小学校前に臨時の給水所を設け、給水タンク(約1トン)を設置し、飲料水を提供している。
9日正午ごろ、給水に訪れた公務員の男性(61)は「自宅で水がほとんど出なくなったので、早めにくみにきた。2017年に引っ越して来てから、初めての経験で驚いている」と不安そうに話した。
市上下水道局によると、地震後、職員が濁りを確認し、8日午後7時半ごろに給水を止めた。地震で井戸水が揺れたことが原因とみられる。復旧の見通しは立っていない。