少子高齢化と市町村合併、政権交代の大きな波の中で、今後の大分県をどうつくっていったらいいのだろうか。大分県の「今」を見詰め、課題解決の糸口を探った年間企画。
※大分合同新聞 夕刊1面 2011(平成23)年1月1日~12月23日掲載
「明日の返済ができない。事業ができなくなったら、生きていく意味がない」 2005年。大分県内の50代の自営業男性が、大分市内の法律事務所へ相談に訪れた。商工ローンや消費者金融など4社に合わせて800万円ほどの借金がある「多重債務者」。...
「自殺は防げる、ということを多くの方々に知っていただきたい」。5月中旬、豊後大野市で開かれたイベント。ホールに集まった市民150人を前に、橋本祐輔市長が「家族や地域、職場で(悩みを抱えている人が発するサインに)周りの人が気付いてあげよう」...
ケースにぎっしり詰めた黄金色の小さな種。「こりゃあ、こんめえなあ」「これを3粒ずつまいていくんで」。20日昼、豊後大野市清川町の雨堤(あまづつみ)公民館。農作業着姿の男女8人が輪になって座り、和気あいあいと金ごまの栽培計画を話し合った。 ...
絵本を手に優しくほほ笑むと、子どもたちの笑顔が返ってきた。7日、玖珠町の塚脇小学校。地元のボランティアグループ「語りべ ひこわの会」のメンバー3人が、音楽室に集まった6年生47人に童話を語り聞かせていた。 「東日本大震災が起きた今、皆...
年間企画「描く」の第5部は「支える」をテーマに自殺について考えてきた。年間約300人に上る県内の自殺者を1人でも減らすにはどうしたらいいのか――。番外編では、自殺対策に携わる3人にインタビュー、読者から寄せられた反響の一部を紹介する。初回...
自殺者を減らそうと、24時間・365日体制で悩みの相談を受け付けている「大分いのちの電話」(大分市)。昨年1年間の相談1万5,231件のうち「死にたい」など自殺に触れたものは7・2%と、1986年の開局以降、最も高い割合となった。悩んでい...
県内で2番目に高い自殺率を背景に、2009年度から市を挙げて自殺対策に乗り出した豊後大野市。先頭に立つ橋本祐輔市長(57)に思いを聞いた。 ――自殺対策を重点施策に掲げた理由は。 「30年ほど前、身体障害者施設で働き始めたころ...
自殺について考えた年間企画「描く」の第5部。読者から多くの意見、感想がメールで寄せられた。 <夫のうつ症状を「病」として認めず、心が弱いんだ、とか、甘えているだけじゃないか?と思っていました。身近にいた家族がそういう状態。渦中にある時...
正社員の採用試験に応募した企業から、封書が届いた。「試験日の知らせに違いない」。緊張しながら開けると、中身は送ったはずの履歴書だけ。断りの書類すらなかった。 「選考対象にもならないっていうことなの!?」。重ねる年齢のハンディは分かって...
生活や家族のために頑張っているが、今後の人生設計には不安を感じている――。大分合同新聞が20~40代の若手・中堅100人を対象に実施したアンケートで、働く人たちのこんな姿が浮き彫りになった。先行きが見えない社会の中で、7割以上の人が将来に...
肉や野菜に混ぜ、レンジでチンするだけで食べられる調味料を作れないか――。気が付くと、忙しい主婦の目線で考えていた。 臼杵市のフンドーキン醤油に勤める兼川一典さん(36)=同市江無田。家庭には欠かせないみそ、ドレッシングなどの商品開発を...
「永遠の絆をつくりたい」「みんな大分への感謝を忘れてないよ」 気心知れた2人の話は弾んだ。別府市の立命館アジア太平洋大学(APU)の卒業生、猿渡崇人さん(29)=大分市中央町=とワンヤマ・ユジーンさん(29)=別府市、ケニア出身。 ...
築30年が過ぎた大分市御幸町のアパート。2LDKの自宅兼事務所の1室に所狭しと段ボールが並ぶ。イスラエル製の鍵掛けや特注バッグが詰め込まれ、ひっそりと出番を待つ。 インターネットで国内外から取り寄せた年代物リール(釣り具)や雑貨、アク...
今も消えない「あの日」の記憶。2年前の冬の朝、国道で乗用車を走らせていた。前の車が店に入ろうと減速、自分もスピードを落とした直後だった。10tトラックに追突され、左半身の自由を奪われた。 大分県東部でシステムエンジニアとして働く30代...
年間企画「描く」の第6部は「働く」をテーマに、さまざまな人生を通じて働くことの意味を見詰めた。大分大学経済学部の石井まこと教授(社会政策)に、労働者を取り巻く社会の現状や課題を聞いた。 ――先行きに不安を感じる労働者が増えている。...
どうして自分はこうなったのだろう。今でも信じたくないし、できたら周りの人には隠したいと思う。 大分市内の男性(62)に異変が起きたのは、9年ほど前だった。当時は県内の大手企業に勤めるサラリーマン。顧客や部下から頼まれたことが次第に覚え...
両手の甲に残る数本の引っかき傷が、壮絶な介護生活を物語る。「もう一生、痕は消えないでしょう」。宇佐市の豊中憲治さん=50代、仮名=がつぶやいた。 引っかいたのは同居していた母(80)だ。2008年9月にアルツハイマー型の認知症と診断さ...
振り返れば、同じ境遇の仲間と出会って笑顔になれたと思う。宇佐市の小内(おない)世津子さん(57)が、ベッドで穏やかに過ごす母田辺芳子さん(86)の肩を優しくさする。「今日はお天気がいいよ」と声を掛けた。 母は1995年に「脳萎縮による...
潮の香りが漂う小道を、親子で歩く。佐伯市鶴見の離島・大島。山城博喜さん(62)が散歩の途中でひと休みすると、隣に座った母ヒサコさん(88)が満面の笑みを見せた。 母に認知症の症状が出始めたのは18年ほど前だ。銀行のATMの使い方が覚え...
日曜日の小学校。お年寄りが廊下の椅子に腰掛けて順番を待つ。 教室の一角に置かれたパソコン画面の前で、臼杵市野田の長(ちょう)文子(ふみこ)さん(81)は緊張しながらヘッドホンの音声に耳をすませた。 「3つ言葉を言います。覚えていて...
「このキュウリは曲がってるけどね、これがうまいんですよ」。足立昭一さん(62)=大分市=がにぎやかに客の呼び込みを始めると、コンテナに詰まった夏野菜が飛ぶように売れていった。 7月から週1回ペースで始めた野菜の巡回販売。実は、デイサー...
ハートマークにおじいちゃん、おばあちゃんのイラストが描かれたシールを貼った車が山あいを走る。 高齢化率が県内で2番目に高い豊後大野市。認知症になっても安心して暮らせるまちをつくろうと、認知症の人や介護家族を地域で支える「高齢者あんしん...
ニガウリ、ナス、小ネギ……。取れたての野菜がどっさりと集まった。「さあ、今日は何を作ろうか」。70~80代の男女7人が持ち寄った野菜を眺めながら、昼食のメニューを考えた。 8月下旬、宇佐市の安心院総合保健福祉センターであった「安心院け...
認知症の人は県内で2万9千人、10年後には3万3千人余りに増えると推計されている。発症しても地域で安心して暮らすには何が求められるのか。「認知症の人と家族の会」県支部の世話人代表を務める中野孝子さん(65)=大分市=に聞いた。 ―...
すてきな笑顔のおばあちゃんに出会った。 佐伯市鶴見の離島・大島で暮らす山城ヒサコさん(88)。同居する長男の博喜さん(62)と一緒に浜辺を散歩した帰り、日陰に腰を下ろすと、にこやかな表情を見せた。 症状が出始めて18年。今も徐々に...
「普通のこと」ができるようにと求められ続けた。できない自分に負い目を感じながら生きてきた。 振り返れば、かつて「劣等感の塊」のようになってしまった原因は教育にあったのではないかと思う。 大分市賀来の宮西君代さん(49)。宮崎県...
歩道のちょっとした段差でも体が揺れ、電動車椅子ごと倒れそうになる。慌ててヘルパーの女性が後ろから支えた。 9月下旬の午後、交通量の多い大分市荏隈の県道。宮西君代さん(49)は、手元のレバーで車椅子を操作しながら自宅からバス停へと向かっ...
この子を残して死ねない。自分に何かあったときは一緒に死ぬしかない――。大分市森でクリーニング店を営む安部綾子さん(64)はそう思ってきた。 外見では分からないが、長男の正治さん(36)には、てんかんと知的障害がある。中学1年の時にイン...
「いつも私たちがついているから」。宇佐市の内尾和弘さん(60)は、徐々に元気を取り戻した全盲の川村愛子さん(26)と一緒に歩きながら、目を細めた。 内尾さんは、川村さんが働く市内の就労支援事業所のサービス管理責任者。1年前に出会った頃...
「皆さんが日々の生活で嫌だな、悲しかったなと感じたのはどんな時ですか」。9月下旬、津久見市中心部の飲食店。NPO法人理事の倉原英樹さん(46)=同市=が尋ねると、向かい合った県南地区の40~70代の男女3人が語り始めた。 「駅でバスを...
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