少子高齢化と市町村合併、政権交代の大きな波の中で、今後の大分県をどうつくっていったらいいのだろうか。大分県の「今」を見詰め、課題解決の糸口を探った年間企画。
※大分合同新聞 夕刊1面 2011(平成23)年1月1日~12月23日掲載
「ここの頼母子(たのもし)は30年近く続いとる。集落の元気のもとじゃよ」。気心知れた住民たちの笑顔の“花”が、ぱっと咲いた。 昨年12月中旬、日田市中津江村丸蔵地区の集会所で市が開いた「集落懇談会」。地区内の堤、簾(すだれ)・平、吉原...
「日本の日田というところのナシだよ。みずみずしくておいしいよ」 春節(旧正月)前のにぎわいを見せる中国・上海市。租界時代のしゃれた洋館が立ち並ぶ観光スポット・外灘(わいたん)近く、大型食料品店の青果売り場で、大分県特産の日田梨「新高」...
「分かった。その方向で進めてくれ」 中国・上海市にある鶏卵の生産・販売会社「上海大鶴蛋品有限公司」に、日本から電話で指示が入った。電話の主は日出町で農産物を扱う商社「エビアン」の大嶋正顕会長(71)。 大嶋会長は、上海の同社からメ...
「もちろん巨大市場で売れればいい。だが……」 アディダスやミズノなど大手企業のスポーツウエア、子供服を縫製するダイナン(本社・大分市)の中国・上海市の生産拠点「上海大南服飾有限公司」。女性従業員たちがミシンで日本向け商品を作る中、但馬...
「大分? 10点満点で言えば2、3点ね」 1月13日、中国・上海市の大手旅行会社「上海錦江旅游有限公司」を訪ねた。観光地としての大分県の評価を聞くと、高楓・日韓部長は、少し困ったような表情を浮かべた後、流ちょうな日本語できっぱりと答え...
ハイセンスな路面店が立ち並ぶ東京・青山。全国から厳選した食品や雑貨などを展示販売するショップ「Rin」の一角に、ひときわ目を引くアジアンテイストの小瓶が並んでいた。パッケージを手に取ると、カボスに腰掛けた赤ちゃんの中国風イラストがインパク...
勢いが違う――。初めて訪れた中国・上海市の発展ぶりは、想像を超えた。市内は連なる高層ビルを背景に、おしゃれな若者たちが行き交う。街中の光景は日本の大都市と何ら変わらない。自動車やファッションなどに、世界中からブランドが集まっていた。 ...
大分からアジア、世界へモノを売ったり、企業が進出するには何が求められるのか。日本貿易振興機構(ジェトロ)大分貿易情報センターの本庄剛所長(41)に聞いた。 ――アジア市場が注目されているが、県内の中小企業の動きは。 「最近、ジ...
見事に耕された土の褐色が日に映える。見渡す限りの台地一面に畑が連なる臼杵市野津町の平野地区。暖かな春の日差しが降り注ぐこの台地で、今年もやがて栽培が始まるサツマイモ「甘太(かんた)くん」が、今、大人気だ。 「おいしいですよ」。約1ha...
少し歩けば汗ばむほどのビニールハウス。まだ寒さが残る屋外を横目に、ハウスの中では何列にも植えられたトマトの株から、鮮やかな赤色に熟した実が顔をのぞかせている。2月下旬、日出町の真那井トマト農園生産組合の農場。「これは株の育ちが強すぎるな。...
転げ落ちないように、足をしっかりと踏ん張る。急傾斜の棚田が連なる豊後大野市朝地町の北平集落。2月中旬、地元の森新次さん(58)らが、あぜの草刈りに追われていた。「冬もしっかり刈らんと、イノシシがかずらの根を掘りに来て水路を荒らしてしまう」...
豊後大野市清川町の朝は早い。「久しいなえ」「あんた、いい野菜作っちょんな」。2月中旬の午前6時すぎ、道の駅きよかわの農産物直売所「清川ふるさと物産館・夢市場」は、新鮮野菜やまんじゅうなどの加工品を持ち込む生産者で慌ただしさを見せていた。 ...
視界いっぱいに広がるナシ山のそばで、新しいビニールハウスの設置が進む。日田市天瀬町の温泉街から車で10分ほど山あいに入った観光農園「湯浅農園」。今春、県立農業大学校を卒業し実家で就農する湯浅達也さん(20)が「やる気でいっぱい」と声を弾ま...
年間企画「描く」の第2部は「つくる」をテーマに、大分の農業の在り方を考えてきた。番外編として、キーパーソン3人にインタビューした。1人目は、流通大手「イオン九州」(福岡市)の産地開発部長として九州産品の消費拡大や商品開発を担当、2007年...
政府が6月をめどに交渉参加の判断をする環太平洋連携協定(TPP)。関税撤廃が原則のため、海外の安い農産物が今より増えることになる。県農業にはどんな影響があるのか。JAグループ大分で農産物販売など経済事業を担当する幸野茂巳JA全農県本部長(...
大分の農業の未来を、どうつくればいいのか。農林水産省出身の平野昭副知事(60)に、課題や県としてのビジョンを聞いた。 ――大分の農業の現状は。 「農業産出額は九州の中でも低い。それを何とか上げたい。市場の需要を分析して産地・販売を...
田んぼのあぜに伸びた枯れ草が、パチパチと音を立てて燃え上がった。3月中旬。祖母山の山裾に広がる竹田市九重野地区の小川集落で、野良着姿の男性12人が集落一帯のあぜを焼く「畦畔(けいはん)焼き」に汗を流していた。 「焼かんと、イノシシがか...
ひんやりとした風が吹き抜ける標高約550mの杉林。その中に、クヌギのほだ木がずらりと並ぶ竹田市九重野地区。安達智徳さん(58)一家が、シイタケの収穫作業に追われていた。3月下旬、10年前の2001年、本紙年間企画「大分に生きる」で取材した...
フキノトウの天ぷら、シイタケの煮付け、山菜おこわ、シカ刺し…。重箱を開けると、山のごちそうが広がった。3月21日、竹田市九重野地区の滝部集落であった「お接待」。2001年の本紙年間企画「大分に生きる」でも取材した伝統行事。再び訪ねると、1...
教室で子どもたちがはしゃぐ。パソコンに向かい、「先生、このゲームしていい?」「やったー、できた」。キーボードやマウスを上手に使い、トランプ並べなどを楽しんだ。 学校の授業ではない。場所は過疎・少子化で廃校して8年になる佐伯市宇目の小野...
すやすやと眠る生まれたばかりの赤ちゃん。ほほ笑ましい画像がインターネット上のブログ(日記風サイト)にある。東日本大震災が起きた3月11日、誕生した孫の命に感謝をつづっていた。 ブログは日田市大山町の第3セクター・おおやま夢工房が開いた...
目の前に広がる風景は、大津波が襲来する前の東北・三陸海岸と重なる。 「みんなで準備しちょこうや」。リアス式海岸が続く佐伯市鶴見。その西部にある吹浦(ふきうら)地区の高台で、住民たちが声を掛け合った。 日本中を震撼(しんかん)させた...
こうして膝を突き合わせたのはいつ以来だろうか。小部屋の畳に敷き詰めた座布団の上で、茶を飲みながら議論が続いた。 12日夜、佐伯市鶴見吹浦(ふきうら)地区の吹公民館で開かれた会合。浜集落3班(17世帯・47人)の40~80歳代の男女11...
ランドセルを背負った子どもたちが勢いよく駆けだした。午前7時半すぎ、佐伯市鶴見吹浦(ふきうら)地区。仲良く登校する子どもたちに、擦れ違うお年寄りが「おはよう」「おっ、元気がいいなあ」と声を掛けた。 「吹浦はみんなが子どもを大事にしてく...
目の前の道は海抜約30mの高台を走る農道に続く。「津波が来たら、ここを駆け上がらんとな」。佐伯市鶴見吹浦(ふきうら)地区の大河原集落(56世帯・148人)。自宅のそばで、小寺隆さん(40)が子どもたちに言い聞かせた。 住宅リフォームの...
抜けるような青空が広がる運動場に、「カン」という高い音が何度も響いた。佐伯市鶴見吹浦(ふきうら)地区の吹小学校で8日に開かれた奥集落グラウンドゴルフ(GG)大会。「下手くそやのう」「いらんこと言わんの!」。クラブを握った住民たちの笑みがこ...
「懐かしい顔を見て『ああ、来てよかった』と思った」。佐伯市鶴見吹浦地区の染矢又雄さん(84)が農作業の手を休め、しみじみと振り返った。 今月中旬の夜。東日本大震災を踏まえ、津波が襲ってきたときにどうするかを話し合おうと、染矢さんが暮ら...
淡いピンクの桜の花が、ひらひらと散り始めていた。10年近く前の春。「あの日」を思い出すたび、大分県内に住む50代男性は胸が締め付けられる。 いつものように仕事を終え、買い物に向かう途中で携帯電話が鳴った。「妹の車が大分市内の山中に乗り...
政府の「自殺総合対策大綱」によると、自殺を図る人の多くが、直前に「うつ病」などの精神的な疾患を発症している。 極度に落ち込む。だるい。動きが鈍い。眠れない。生きていることがつらい……。そうした症状に苦しみ、次第に追い詰められる。 ...
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