広告会社から統合マーケティング企業へーAIADと双葉通信社の軌跡から読み解く、日本のファッションマーケティングの変遷【WMH STORY マーケティング編 vol.3】
ファッション・ビューティー領域に特化したソリューション・グループ、ワールド・モード・ホールディングス(WMH)のビジネススキームは、ユニークで他に類似例がない、文字通り唯一の存在です。人材の採用育成、店舗運営、マーケティング、空間デザインなど、専門性の異なる企業が集まり、クライアントの課題に応じて協業することで多岐に渡るソリューションを提供しています。
「統合的マーケティングによるビジネス支援」をテーマに、2回にわたりグループ企業の取り組みについてご紹介していきます。
ファッション産業の変遷とともに成長を遂げてきたAIADと双葉通信社
AIAD(アイアド)と双葉通信社は、ファッション産業の変化と発展に呼応しながら、広告代理店として成長を遂げてきました。しかし、ファッション産業の構造が変化し、雑誌広告が勢いを失い始めると、両社の業績に陰りが見えるようになりました。
それでも、2017年から始まった経営変革によってAIADは高収益化して再起を果たし、双葉通信社も2023年にWMHグループに参画後、着実に変化を遂げています。
こうした経営改革を主導し、現在AIADと双葉通信社の代表取締役を務める小西聡とともに、2社の歩みを振り返りながら日本のファッションマーケティングの変遷をたどり、そしてファッション産業の現状の課題、現在起こっている変化や今後の方向性を探ります。
さらに、老舗の広告代理店から統合マーケティング企業へ、進化に挑む2社の取り組みや展望についても聞きました。

金融や酒類業界からファッション・ビューティー中心へ。時代の流れとともに変化した顧客のポートフォリオ
ー双葉通信社とAIADは同じルーツを持つそうですが、まずはそれぞれの創業の経緯について教えてください。
双葉通信社は現在の会長の祖父にあたる創業者が、1948年に設立した広告代理店です。当初からファッション・ビューティーに特化していたわけではなく、金融などのクライアントを中心にスタートした後、次第にファッション・ビューティー分野の広告出稿が増えていきました。戦略的にその方向に進んだというよりは、雑誌媒体に旺盛な広告出稿を行っていたファッション関連企業のシェアが自然と高まっていったということです。
結果、インポートのハイブランドを主要顧客とする広告代理店として成長しました。

AIADは、その双葉通信社にいた前野正さんが独立し、1978年に神戸で創業しました。創業当時のクライアントはウイスキーや日本酒などのアルコール類の会社が中心でしたが、こちらも雑誌広告を手掛けていく中で、次第にファッション・ビューティー分野のシェアが高まり、特に国内アパレル企業が主力クライアントとなっていきました。

広告と媒体、成長し合う二人三脚の関係
―当時は今よりも雑誌の力が大きかった時代だと思いますが、広告代理店と雑誌はどのような関係だったのでしょうか?
1960年代〜70年代を通じて、日本の経済成長とともにファッション産業も拡大し、雑誌への広告出稿量は目に見えて増加していきました。そして当時の広告代理店は媒体側に軸足を置いた営業スタイルを取っていたため、媒体社の営業代行のような役割を果たしていました。例えて言えば、不動産の営業に近いようなものだったと思います。「ここの雑誌枠が空いています、どこか出稿しませんか?」とクライアントに提案していくような形です。
『anan』や『non-no』『POPEYE』などが創刊されたのが1970年代。中学生、高校生、大学生などの若い世代の日常の情報源が、主に雑誌であった時代だったと思います。
ライフスタイル別、趣味嗜好別に細かくターゲティングされ、黄金期には雑誌数もどんどん増えていきました。
ーまさに雑誌全盛の時代だったのですね。
日本の雑誌の細分化は世界的にも類を見ない現象だと思います。
これは日本独特なもので、例えば自動車業界においても仕様を変えた車種を多数展開するように、消費者の細かなニーズに応えていく、日本ならではの文化が背景にあったのだと思います。
―雑誌の細分化と、それに対応する広告展開が、日本の広告ビジネスに独自性をもたらした、ということでしょうか?
そう思います。媒体社は、次々と新しい雑誌を創刊し細分化していく中で、営業部門をすべて社内で賄うことが難しくなりました。その結果、「クライアントの開拓は広告代理店に任せるから、それぞれの雑誌に合う広告主を見つけてきてくれないか?」という協業関係が生まれていきました。
数多くの雑誌の発行が続き読者が多様化していく過程で、広告主は、ターゲットに応じて雑誌を選択し、きめ細かい広告展開を行いました。雑誌への広告出稿が、セグメントされた消費者層へのマーケティング手段となっていったということです。
加えて、80年代後半以降、日本では大店法が規制緩和へと動き、大型商業施設の出店が全国で加速しました。売り場面積の拡大により、店を出せば売上が伸びるという時代で、ファッションブランドも次々と店舗を展開していきました。
一方ではライフスタイル別に雑誌広告を出稿しながら消費者認知を拡大し、もう一方では多店舗展開によって規模を拡大するという、2つの施策が主な成長のための打ち手となりました。
双葉通信社やAIADもまた、その流れの中で雑誌社との関係を強化し、ファッション広告専業の代理店として成長しました。

ファッション産業の構造が変化した2000年代。陰りを見せ始める広告と媒体。
ー90年代から2000年代にかけては、バブル崩壊の影響などを受け、雑誌や広告のビジネスが徐々に陰りを見せていったと思います。二人三脚で成長してきた広告代理店と媒体社には、どのような影響があったのでしょうか?
80年代には川久保玲さんや山本耀司さんをはじめとするデザイナーが世界で注目を集め、日本のファッションが勢いを増していました。しかし、90年代初頭にバブルが崩壊するとその状況は次第に変化していきます。小売りの出店にはブレーキがかかり、オーバーストア状態が顕在化しました。店舗閉鎖も目立つようになり、売り場面積を縮小するという動きが始まったのです。
バブル崩壊によって、消費者の可処分所得が減少し中間層が縮小していきました。さらにファストファッションが台頭し、ミドルプライスの国内ブランドが大きな打撃を受け、雑誌媒体への広告出稿も減少しました。
こうした動きに加え、2000年以降は、デジタル化が急速に進展します。雑誌媒体の役割の変化とともに、雑誌広告を中心とする広告代理店にとっては、非常に厳しい時代に突入しました。
特にAIADは、国内ファッションブランドを多くクライアントとしていたので、こうした影響を真正面から受けることになりました。
逆風を越えるため取り組んだのは、従来の広告代理店モデルからの脱却
―環境が激変し光が見えづらかった状況の中、小西さんは2016年にAIADに入社されています。当時はどのような状況だったのでしょうか?
デジタル化の進展とともに、情報発信の主権は企業から消費者に移りました。広告代理店の中抜きなども話題に上がるようになり、従来の代理店モデルだけでは対応できなくなっていました。
そのような中、AIADは2013年にファッション領域を専門とする企業が集まったWMHグループに参画しました。
私はその後の2016年に入社し、翌年に代表取締役に就任したのですが、当時AIADは赤字に転落しており、「このままではまずい」という危機感が社内に広がっていました。
半年ほどかけて社員全員が参加する層別のグループワークを行い、課題の洗い出しと方向性の共有を行いました。たどり着いた結論は「従来の広告代理店モデルから脱却する必要がある」。現状のメディアの営業代行に近い機能だけでは限界があるため、クライアントの経営上の課題ありきで仕事を組み上げていく、本来の課題解決型の企業形態に変えていくことにしました。

AIADが目指すFashion Architect。
課題解決のために様々な機能を組み合わせ最適なビジネスモデルを提案。
―具体的にどのような改革を行なったのでしょうか?
クライアントの課題は多岐に渡るため、転換への第一歩として、広告、PR、SNS、EC、CRM、ビジュアルマーチャンダイジング、セールスプロモーションなど、サービス領域を一気に拡大し、さらにデジタル寄りに大きくシフトさせました。
一方で、ファッション企業各社においても、特に2000年以降、出店と雑誌広告による従来の手法から、経営システム全体を見直し、最適化を図る戦略転換の必要性が顕在化しているように見受けられました。
時間をかけて変革を進める余裕がなかったため、経営プロセスを短期間で一気に刷新しました。社員には戸惑いもあったと思いますが、事業転換に着手した翌年には幸いにも黒字化を果たし、その後も毎年、利益率の改善が進んでいます。

AIADのビジネス領域
―双葉通信社も2023年にWMHグループ入りを果たしましたが、どのような経緯だったのでしょうか?
双葉通信社は創業以来、富裕層向けハイブランドを中心に信頼を築き、広告業界が厳しい中でも一定の業績を維持してきました。しかしやがて、AIADと同じ問題が顕在化するようになり、特にデジタル対応が遅れているという課題がありました。
AIADと同じように、従来の広告代理店モデルからの変革を図る必要があったため、当グループに参加することでサービス領域を拡大し、経営変革を行うという判断がなされました。
双葉通信社においても、全社員との面談を通して課題意識を共有して、顧客に軸足を置いた課題起点のサービス提供やデジタル強化、幅広いクライアント業種への拡張といった方向性で改革を進めています。AIADの前例がありますので、よりスピード感を持ってグループ各社との連携強化を行っています。

2023年に双葉通信社がWMHグループに参画
左から双葉通信社 代表取締役会長 大川博と小西
今また変革期にあるファッション産業。ビジネスのキーとなるのは“ローカルマーケットへの対応力”
―ファッション産業は今大きな変革期を迎えているように感じます。グローバルな視点で見ると、今後どう変化していくとお考えですか?
現在、米国社会で起きている状況はトランプ大統領の政権や政策による特異な現象だとも言えない側面があると思います。繰り返される経済破綻や格差の拡大をはじめとする社会不安の反動と見えないこともありません。
金融やSNSへの偏重、グローバリズムなどに対する疑問が噴出しているとも言えます。
逆に共同体や家族、ネイティシズムなどの価値への回帰も起こっています。
どこまでこの現象が、勢いを持ち、継続するのかわかりませんが、大きく世界が変わりつつあることだけは確かだと思います。
こうした背景は、フランス・イタリア・米国などに牽引されてきたファッション、特にハイブランドのあり方に影響をもたらすと思われます。
長期的にはファッションそのものの定義が変わること、中期的にはグローバル展開するハイブランドに対する消費者の態度変容が起こることも考えらえます。
短期的には新しいコンセプトのブランドの成長機会が増えるかもしれません。
―ビジネスの現場にはどのような影響があるでしょうか?
これまで、世界を単一の市場ととらえてグローバルに展開することで成長を描くという戦略が主流でしたが、消費側も供給側も政治環境が大きく影響して、いくつかのブロックに分かれるなど見直しが入っています。
それぞれの地域で支持を得るドメスティックやローカルのブランドに機会があるかもしれません。今後、ローカルマーケットへのきめの細かい対応力がより重要になってくるのではないでしょうか。
―私たち消費者にとっても、ブランドが示すイメージが以前より揺らいでいるように感じます。
昔は「このブランドを着ていれば、こう見られる」という明確なイメージがありました。今は、SNSなどを通じて多様な価値観が並列に存在していて、「こう見られるはずだ」という認識が成り立たなくなっています。従来のブランド序列やファッションによる自己表現への考え方が、変わってきているのだと思います。
そのため、ファッションブランド自体の存在意義や、広告・マーケティング戦略のあり方を考え直す機会が多くなりました。
広告代理店も、認知やプロモーションの担い手から、クライアントの経営課題に深く入り込む存在へと進化しなければ、生き残っていけない時代になっていると思います。

―もはや広告代理店というより、経営パートナーとなることが求められているのですね。
そうならなければ、生き残ることができないという危機感があります。私たちは、ファッション・ビューティーに特化したソリューション・グループとして、クライアントの事業成長にどのように貢献できるかを、日々自らに問いかけています。
戦略提案だけではなく、戦略を実現する力が、ポイントだと思っています。広告やPR、店舗運営、人材教育、海外展開まで、実行力のある体制を磨くことが、私たちにとって何よりも大切です。
―今後さらに提供していきたい領域やツールについて、構想されていることがあれば教えてください。
現在の傾向として、日本の企業は国内市場だけでは限界があると感じており、積極的に海外展開に投資を始めています。
特にAPACは、ヨーロッパのハイブランドからも今後の成長市場として注目されています。しかし、アジア各国は文化や生活習慣が非常に多様で、「理解しづらい」と感じられる部分も多い。そうした中で、ローカル拠点を構えて事業展開するWMHグループのように、アジア各国の文脈に精通し、ローカライズをサポートできる存在の重要性は、ますます高まっていくと考えています。
しかし、マーケティング領域における海外対応力はまだ十分とは言えないので、これから強化していきたい大きなテーマのひとつです。

ファッション・ビューティー領域を中心に国内外で事業を展開する
ワールド・モード・ホールディングスグループ
ファッションとカルチャーを結びつける、統合マーケティング企業へ
―業界として今まで当たり前だった価値観が揺らいでいる今、ブランドがこの先も生き残っていくために必要なことは何だと思われますか?
ファッション業界はカルチャーの一部として、より広い領域との接続が求められていくと思います。ブランドはファッション単体でなく、例えば、アートや文学、音楽、スポーツ、ホテルや旅行、ゲーム、車といった異なる分野と連携するなど、多様な文化とどう融合していくかが鍵になると感じています。
「モノを売る」だけでなく、文化的価値観の一部となることを目指した展開が、始まっていると思います。
AIADと双葉通信社も、アパレル、コスメ、スポーツ、ジュエリー、時計といった従来のカテゴリに加えて、ホテル、旅行、自動車、アート、音楽など、カルチャー全般にクライアントの構成を広げていこうと、模索を続けています。
―最後に、AIADと双葉通信社、それぞれが目指す未来像についてお聞かせください。
AIADと双葉通信社は、現在もプロジェクトや情報共有の面で密接に連携しながらクライアントの事業を支えていますが、今後さらに連携を強めていきます。デジタルシフトをさらに強化しつつ、マーケティング戦略の立案力と、複数サービスを束ねて実効性のあるビジネスモデルを構築・運用するプロジェクトマネジメント力を、コアスキルとして磨いていきたいと考えています。
グループ全体としては、ファッション、カルチャーも含めた高感度で付加価値の高い商品やサービスを提供する産業に特化し、品質管理や物流といった領域にまで踏み込むなど、クライアント課題に合わせたサービス領域をさらに広げていく方針です。
その中で、私たちは、広がっていくグループのサービスを積極的に取り込み、クライアントの事業全体を支援していきます。そうしてグループの成長を牽引する存在になれればと思っています。
※WMH STORY vol.1、vol.2もぜひご覧ください。
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【ワールド・モード・ホールディングス株式会社について】
ファッション・ビューティー業界を専門に人材やデジタルマーケティング、店舗代行など様々なソリューションを提供するグループ。iDA、BRUSH、AIAD、AIAD LAB、フォーアンビション、VISUAL MERCHANDISING STUDIO、双葉通信社 の7 社の国内事業会社および シンガポール、オーストラリア、台湾、ベトナム、マレーシアに海外拠点を持ち、専門性の高い各社のシナジーによって、クライアント企業の課題に応じた実効性の高いソリューションを提供しています。
https://worldmode.com/
【株式会社AIADについて】
メディアありきの課題解決ではなく、クライアントの課題から導きだしたソリューションを提案。広告・SP・CRM・OEM・ライセンス・EC・SNS。ファンクションを自在に組み合わせ、さらに顧客やマー ケットの本質、ブランドの強みを加えたビジネスモデルを構築します。
https://www.aiad-net.com/
【株式会社双葉通信社について】
1948年創業の広告会社。特にファッション、ラグジュアリー等の広告マーケティングに深い知見と経験を持つ。長年、雑誌広告に強みを持っているが、近年はデジタル施策も積極的に遂行。2016年よりLAUNCHMETRICSと日本国内における独占販売代理契約を締結しマーケティング・PR業務を包括的に支援する「ブランドパフォーマンスクラウド」を販売・サポート。
https://www.futaba-ad.co.jp/
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