【後編】「最後は『愛』が品質を決める」── ヒーローに頼らない設計と成長哲学 ブロードリーフ インフラエンジニア 左近充裕樹が語る、AI時代の学び方と品質思想

前編では、ブロードリーフのインフラエンジニア・左近充裕樹の20年にわたるキャリアの歩みと、インフラエンジニアの仕事について紹介した。
後編では、これまでの「やり切った」成功体験、AI時代に求められるスキル、そして品質への向き合い方について深掘りする。
インタビューの中で、左近充が何度も強調していた言葉がある。
「最後は“愛”が品質を決めると思っています。」
精神論ではなく、長年インフラ基盤を支えてきた実感から出てきた言葉だ。
「やり切った」成功体験──Infrastructure as Codeの導入
左近充がキャリアの中で「やり切った」と感じる成功体験の一つが、サーバー移行プロジェクトでの新技術導入だ。
「データセンターからパブリッククラウドへの移行をしたときに、Infrastructure as Code(IaC)という技術を取り入れました。それまでは手順書に『このコマンドを流します』と書いてあるものを手作業でやっていたんですけど、それをプログラムで管理できるようにしたんです。」
手作業には必ずミスがつきまとう。クリックミス、手順の抜け漏れ、設定のばらつき。人間が行う以上、ゼロにはできない。
「誰がやっても何回やっても同じ結果になる仕組みを作りました。10台のサーバーを人の手で設定していると、どうしてもどこかで漏れが出ます。そこを仕組みで防ぐようにしました。」

この取り組みは、その後の基盤構築にも活きている。少人数で大量のサーバーを運用するインフラチームにとって、再現性と自動化は不可欠だ。
「人がやることには限界があります。コード化すれば、“その人しか知らない設定”をなくせます」
ここでも軸にあるのは、個人の頑張りではなく“仕組みで品質を担保する”という思想だ。
技術選定は「エンジニア採用」と「誇り」にも直結する
左近充は、技術選定において「新しさ」を意識している。それは単なる興味ではない。
「使っている技術スタックは、採用のときに応募者の判断材料になります。求人を見たときに『少し古い技術だな』と思われると、それだけで候補から外れる可能性もあります」
古い技術を使い続けることは、人材確保の面でも不利になるだけでなく、現場エンジニアのキャリア形成にも影響する。
「自分のキャリアが“今あまり使われていない技術”で固まってしまうと、選択肢が狭くなります。できるだけ広く使われている技術を選びたいと思っています。どこに出しても恥ずかしくない構成にしておきたいんです。」
こういった感覚は、プロダクトへの当事者意識の表れだ。
AI時代に求められること──「外せない技術」をキャッチアップし続ける
今、左近充が最も注目している技術トレンドはAIだ。
「一昨年あたりから、もうAIが外せないと思っています。日進月歩ですごく変わっていて、『このモデルがいい』と思っていたら次のモデルがもう出てきている。キャッチアップしていかないと、自分の引き出しにならない。」
左近充自身も、AIを積極的に活用している。つい最近も、業務の合間にAIを使ってアプリケーションを試作したという。
「昔だったらめちゃくちゃ時間がかかっていたようなアプリケーションの実装が、AIだとすごく簡単にできるようになっています。打ち合わせの前にAIエージェントにお願いしておくと、打ち合わせが終わる頃にはもう作業が終わっている。隙間時間で作業が進んでいくんです。」
しかし、左近充はAIに対して手放しで楽観的なわけではない。
「正直、最初はすごく不安に思いました。自分の今までやってきたことの価値が、全て置き換えられるような感じがしたんです。」
その不安を乗り越えた今、左近充は一つの結論に至っている。
「使っていけばいくほど、AIは確実なものじゃないなとわかってきました。自分の力を増幅させるツールとして、道具として使う方が正しい。AIは間違うこともある。だから、ベースとなる自分の知識があって、そこに肉付けしていくイメージで使うべきだと思います。」
「最後は“愛”が品質を決める」──内製化へのこだわり
開発体制の話になると、言葉に少し熱がこもる。
「外部パートナーとの協業はもちろん大切です。ただ、それだけだとノウハウが社内に残りにくい面があります。」
そして、ここで左近充から印象的な一言を聞いた。
「最後は“愛”が品質を決めると思っています。」
ここでいう“愛”は属人的な情熱ではなく、当事者意識のことだ。
「自分たちのプロダクトだと思っているかどうかで、細かい判断が変わります。将来困らないように、今この瞬間に、この一手間をかけるかどうか。そこに必ず差が出てくると思います。」
自分たちのものとして、日々の業務に向き合う。その姿勢が品質につながると考えている。
「ヒーローはいらない」──インフラエンジニアのやりがいとは
インフラエンジニアのやりがいについて聞くと、左近充は意外な言葉を口にした。
「よく言われるのが『ヒーローはいらない』ということなんです。」
障害が発生したときに颯爽と現れて問題を解決する「ヒーロー」。一見かっこよく見えるが、それを健全な状態と考えていないからだ。
「サービスがダウンしたときに救ってくれたヒーローがいる。でもそれって本当のヒーローじゃないんですよね。本来は、そもそも問題が起きないようにする。誰でも対応できるようにしておかなければならないんです。『この人がいないとダメ』という状態は良くない。」
このことはGoogleでも言われているプラクティスだという。
「自分が作った仕組みで、問題が未然に防げたとき。障害が起きそうだったけど、自動で復旧してユーザーに影響がなかったとき。そういうときが一番やりがいを感じますね。」
トラブルが起きれば注目される。しかし、トラブルを起こさなかったことは評価されづらい。
「大きな障害は取り上げられがちですけど、そうならないように手を打っていたことって、なかなか見えない。それでも、『あ、そう来ると思ってこれやっておきました!』と言えたとき。そこにやりがいを感じるんです。」
知識共有の重要性──「24時間365日」を支えるために
左近充が強く意識しているのは、チーム内での知識共有だ。
「自分一人だけが知識を持っている、と言う状態は健全ではないと思っています。24時間365日で対応しているので、夜中に障害が起きることもある。そのとき『全然わからないけど自分が対応しないといけない』という状況は避けたいと考えています。」
チャットのコミュニケーションにおいても、あえてチーム全体に見えるチャンネルを使うようにしている。
「できるだけ個人で連絡を取らないようにしています。全員が情報を見られるようにしておけば、『あのとき言ってたよな』というフックになりますし、『それならあの人が詳しそう』という判断もできるようになります。」
ドキュメンテーションも重要だが、それだけでは伝わらないものがあると、左近充は考える。
「ドキュメントに書いてあっても、読んだだけではわからないことがある。日頃からの共有があってこそ、いざというときに動けるんです。」
「苦手だからこそ努力でカバーする」──登壇準備の舞台裏
社外のカンファレンスで登壇経験を多数持つ左近充。しかし意外なことに、彼は自分を「話すのが苦手」と評する。
「説明がすごく下手だと思っています。アドリブも効かない。だから結局、努力でカバーするしかないんですよね。」
大規模なカンファレンスで登壇するときは、特に入念な準備を欠かさない。
「同じ話を何回も何回も練習します。時間をオーバーできないので、リハーサルをして安定するスピードと内容を確認する。スライドなしでも話せるレベルまでやらないと、うまくできないんですよ。」
練習場所にも工夫していると言う。
「家だと恥ずかしいし、うるさいって言われるので、車の中でやっています(笑)。そこはなかなか家族の理解が得られないんですよね。(笑)」
社内の技術カンファレンスでも「慣れてるね」と言われることもあるが、それは違うと左近充は言う。

現場で培ったインフラ運用の知見を外部イベントで共有。クラウドオペレーターアワード2022でオーディエンス賞を受賞した。
「慣れじゃなくて、練習したんだよって言いたくなります(笑)。でも、努力しないとうまくいかない人は、努力するしかない。やった後の達成感があるから続けられるんです。」
社外で活動する理由──引き出しを増やすことが、自分と会社の価値になる
左近充が社外のカンファレンス登壇や勉強会などで積極的に活動する理由は、前編でも触れた「自身の市場価値」だけではない。
「引き出しが多い人が、一番役に立てると思っています。その引き出しって、社内にいると増やし続けるのが難しいと思うんです。どんなに大手の会社でも、社外の方がずっと広いんですから。」
そして社外の勉強会に出始めてから、世界の見え方が変わったという。
「『あ、こんな世界があるんだ』と感じました。だから若い人にも、社内に閉じずに社外に出てほしいと思っています。」
そして左近充自身も、日々の学習を欠かさない。
「朝は1〜2時間ぐらいオンラインの勉強会やカンファレンスの動画を見ています。YouTubeの履歴を見せても恥ずかしくないぐらい、技術系の動画ばかりです(笑)。夜は書籍を読んでいます。」

Google日本オフィス内。社外の場で得た刺激が、日々の学びと改善につながっている
オンラインと書籍、両方が必要だと左近充は考える。
「トレンドを追いかけるならオンラインがいい。でも体系的に学ぶなら書籍が大事。編集者のチェックも入っていて、ちゃんとした内容になっていますから。」
これからのエンジニアへ──AIの時代だからこそ「自力」が必要
最後に、これからのエンジニアへのメッセージを聞いた。
「AIがどれだけ普及しても、最終的に判断するのは人間だと思っています。責任を取るのも人間。AIが出してきた答えが正しいかどうか、判断する力が必要なんです」
AIに丸投げして「AIが言ったから」では済まされない。
「協力会社の人がやったから、では通らないのと同じです。AIが出した回答を受け入れたのは自分なんだから、最終的には自分の責任。だから、ベースとなる知識や経験を増やし続けることは、AIがいくら普及しても必要だと考えています。」
左近充は毎日、学び続けている。新しい技術をキャッチアップし、社外で刺激を受け、登壇に向けて準備を重ねる。その姿勢は20年経った今も変わらない。
「世界にはすごい人がいっぱいいて、自分がいかに情けないかを痛感することもあります。でも、その焦りが原動力になっている。これからも学び続けて、引き出しを増やし続けていきたいですね。」
【編集後記】
2時間にわたるインタビューを通じて印象的だったのは、左近充さんの「謙虚さ」と「向上心」の両立だ。20年のキャリアを持ちながら「まだまだひよっこ」と語り、社外には「化け物みたいな人たち」がいると刺激を受け続けている。
「ヒーローはいらない」という言葉には、インフラエンジニアとしての矜持が詰まっていると感じた。目立たなくても、サービスの「当たり前」を支え続ける。その仕事に誇りを持ち、日々絶えず研鑽を重ねていく姿は、エンジニアを目指す人にとって一つのロールモデルになるのではないだろうか。
取材・文:尾崎真弓(株式会社ブロードリーフ 広報)
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