「自分は微力。勉強熱心な良いスタッフに囲まれています」と話す金成妍さん
昨年4月、玖珠町初の博物館として開館した久留島武彦記念館。町出身の口演童話家・児童文学者、久留島武彦(1874~1960年)の功績や精神を紹介する施設で、初代館長としてかじ取りを任された。
同館では、たとえ1人でも来館すればスタッフが案内する。「久留島先生の精神は信じ合い、助け合い、違いを認め合うこと。先生が何をしたかだけではなく、その精神を含め、私たちの力で伝えたいのです」 今年4月には念願だった副読本が完成した。町教委、町内7小学校の現場の教員らとともに作り上げ、町内の小学4~6年全児童に配布した。「研究は生き物」と言う。実際に学校でどう使われたのかを数年後に検証するつもりだ。
「生まれ育った町に対する誇りが、一生の、特に大人になって外に出たときのアイデンティティーになる」との強い思いが行動へとかき立てる。
2009年に町内の小学校で講演を始めたころ、児童に「玖珠の自慢は?」と尋ねると、「何もないよ」と答えていた。「最近は『童話』『久留島武彦』と答えてくれるようになった。子どもたちが知り始めると、大人たちも久留島先生のことを学ぶようになり始めた」と手応えを感じる。
思いは玖珠町だけにとどまらない。県全域でもっとつながれないかと思いをはせる。「広瀬淡窓、福沢諭吉、久留島武彦。近世から近代にかけて日本の教育の歴史が大分には詰まっている。今は各地がバラバラなのがすごく残念です」
3人の先哲が説く学びの共通項を「平等」と考える。「教育」をキーワードにネットワークを築けば、大分の子どもたちが他にはない自尊心を持てる―と信じている。「この山奥から何ができるか、毎日もがいています」とほほ笑んだ。