土葬墓地の仏教徒用エリアを案内する崔炳潤さん=10月中旬、京都府南山城村童仙房の高麗寺国際霊園
ガードレールの向こうから木々が迫る。2頭の鹿がこちらを振り返りながら茂みに逃げていく。目的地の周辺は、日出町南畑のイスラム土葬墓地計画地に似た光景が広がっていた。
京都府東南端に位置する南山城村。三大銘茶の一つ、宇治茶の主産地だ。
木津川沿いを折れ、山に入った先の高原、童仙房(どうせんぼう)に土葬墓地があるという。イスラム教徒(ムスリム)だけでなく、キリスト教徒、仏教徒が眠り、地元も受け入れているらしい。
水質汚染の懸念を発端に計画が頓挫した日出町のケースとどう違うのか。
10月中旬、高麗寺国際霊園へ車を走らせた。
■日出町での計画の6割程度の規模
土葬墓地は3宗教別に計51区画が並んでいた。日出町での計画(79区画)の6割程度の規模だ。
どれも長方形を描くようにわずかに土が盛られ、小さな墓碑が添えられているだけ。火葬で見慣れた墓石がなく、簡素な印象だ。
においがないか確かめたくて息を吸った。澄んだ空気を感じるだけだった。
ムスリム用エリアは25区画。3区画に故人が眠り、残りの大半には契約者名が掲示されている。この日は大阪府吹田市の大学生アーヤ・カーンさん(36)が見学に訪れていた。
カーンさんは在日約40年のインド出身の父を持ち、大阪で生まれ育った日本人ムスリム。家族の「万が一」が気になり始め、インターネットで土葬が可能な霊園を探した。
火葬はムスリムにとって禁忌。飼い猫を火葬した過去にさえ、今も罪悪感が続いているという。
「ここは環境が良いですね」。園内を一巡りし、何かに納得した様子でぽつりと口にした。
■問い合わせ「日本人からが多い」
意外だったのは仏教徒用エリアの規模の大きさだ。
ムスリム用に次ぐ17区画を構え、そのうち6区画が埋まる。残りの区画もほとんどが契約済みという。墓碑には全て日本人名が記されている。
ムスリム用エリアでも墓碑に日本人名を見かけた。現代の日本社会において土葬を求めるのは外国人、それもムスリムばかり―というわけではないのか。
経営責任者で宗教法人の代表役員崔炳潤(さいへいじゅん)さん(84)によると、土葬の需要を聞きつけて墓地を設けたのは2022年。「以来、問い合わせは日本人からが多いんですよ」
見学に来たある仏教徒の日本人男性は「子どもが病気でしゃべれない。あの世では心ゆくまで会話を楽しみたいが、火葬されると魂さえ残らない気がする」と話したという。土葬を求めるのは、必ずしも宗教的理由からばかりではないようだ。
■海外ルーツや土葬求める仏教徒も
郷に入れば郷に従え―。
日出町での土葬墓地整備計画を巡っては、そう批判する声をよく聞く。国内の葬送のうち、火葬の割合が99・977%に達していることが背景にある。
一方でカーンさんのように海外にルーツのある日本人が存在する。土葬を求める仏教徒もいる。
日出町で計画を主導するムスリムも日本国籍の取得者たちだ。
「郷」と言ったとき、どんな集団を指すのか。従うべきとされるのは、そのうち誰の慣習か。
自分の視点が揺らいでいくのが分かった。